「塩を食べたら出す」という思考にシフト
平成27年の国民健康栄養調査では、日本人が1日に口にする食塩摂取量は平均で9.7gと、推奨の目標値からは大幅にオーバーしていた。特に外食が多いビジネスパーソンが、塩分過多になるのは避けようがない。
外食が多い人ほど減塩は難しいと思いがちだが、前述の市原氏は、塩をただ減らすのではなく、塩を食べたら出すという思考にシフトする「塩出しトレーニング」を奨めている。
「塩を摂る量を一気に減らしても、長続きしません。それよりも、塩分の排出を促す食品や食事の組み合わせを考えて、食べた塩を外に出すコツ、塩出しトレーニングを生活に取り入る方法をおすすめします。
もちろん毎日、塩辛いものばかりを食べることは奨められませんが、味の濃いものを食べたいときには、併せて塩を出す食材を一緒にとりましょう。その意識が身につけば、濃い味つけで上がるばかりの血圧を下げるきっかけになります」
塩を出す食材としてよく知られているのが、カリウムを多く含む野菜や果物などだ。しかし、外食でこれらをたくさん摂るのは難しい。そこで簡単に取り入れられるのが、食後の牛乳だ。
骨を強くするイメージの強い牛乳だが、牛乳摂取量が多い人と全く飲まなかった人では、飲んだ人のほうが上の血圧が10.4mmHg低いという研究結果が発表されている。
牛乳には乳清たんぱく質に加え、カルシウム、ビタミンDなどが含まれる。それぞれ他の食材から摂るよりも、1杯の牛乳から総合的に摂るほうが、高血圧の予防効果が高いという研究があり、これを「ミルクマトリックス効果」というそうだ。
また牛乳は塩出し食材として有名なカリウムも豊富。コップ1杯の牛乳で1食分の野菜や果物に相当する200mg以上のカリウムが摂れる。
例えば、ラーメンを食べた後には、牛乳を飲んで、摂った塩分をできるだけ外に出せば、血圧を下げるための第一歩になる。ただし、牛乳は飲み過ぎると脂肪分の摂り過ぎになり、肥満につながるので、血圧ダウンには低脂肪や無脂肪のものがお奨めだ。
食後のお茶で高血圧の発症を抑える
また、牛乳が苦手という人には、食後の緑茶も良い。緑茶に含まれるカテキンは1~2時間でほとんどが血液中に吸収されるため、食後の血圧上昇を抑えるのに効果的だ。
ある研究では毎日湯のみ1杯程度以上の緑茶を1年以上飲み続け続けている人は、緑茶を飲む習慣がない人に比べて、高血圧を発症する危険性が46%も低かったという研究もある。
このように、減塩食を始めるのが難しい場合には、塩を出す食品を意識することで、血圧を下げるサポートになる。「血圧高め」を無視する前に、まずは食後の牛乳やお茶を試してみることから始めてみてはどうだろうか。
市原淳弘(いちはらあつひろ)◎東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授。日本高血圧学会高血圧専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。「医者も受診する血圧専門医」として全国各地から高血圧で悩む患者があとを絶たない。エビデンスに基づいた血圧の新常識を紹介した著書『血圧リセット術』(世界文化社)が好評。