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2020.03.07 21:00

音楽業界にポッドキャストが与える「プラスとマイナス」

Getty Images

3月上旬に音楽業界の非営利団体ポッドキャスト・アカデミーは、来年から優れたコンテンツ制作者を讃えるアワードの「ゴールデンマイク」を始動すると宣言した。音楽業界ではここ10年ほどの間で、ポッドキャストの影響力が大きく高まった。

スポティファイでは7万件以上のポッドキャストが配信されており、米国で毎週ポッドキャストを聴く人々は約1億1000万人とされている。2006年当時はポッドキャストに親しみを感じると答えた米国人の割合は22%だったが、この数値は現在、70%に拡大した。

スポティファイは近年、ポッドキャスト向けの投資を増大させている。同社が2019年にポッドキャスト関連コンテンツの獲得に投じた費用は、4億ドル以上に達していた。

スポティファイによると、利用者の16%以上がポッドキャストを聴いており、有料会員数は1億2400万人に達している。同社は昨年2月に、人気ポッドキャスト番組を多数配信する米国のギムレットと、Anchorを買収した。

ポッドキャストが今後、どのような影響を音楽業界に与えるかは、現時点では定かではないが、ストリーミング分野の成熟化が進んだ米国や英国、欧州においては、ポッドキャストが音楽業界の売上にマイナスの影響を与える懸念も生じている。

ローリング・ストーンのTim Ingham記者が昨年10月に公開した記事では、ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)のストリーミングからの売上の伸び幅が、2018年から2019年にかけて縮小したことが指摘された。

2018年の年初から9月までのUMGのストリーミング売上は、前年比で6億1100万ドル(約650億円)の伸びだった。しかし、2019年の同期間の売上は、前年比で4億9700万ドルの伸びにとどまった。つまり、同社のストリーミング収入の伸び幅は1年間で1億ドル以上も、縮小したことになる。

スポティファイは2014年に、売上の80%相当を権利者へのロイヤリティ支払いにあてていがが、それ以降はこの比率は低下している。ストリーミング事業者は、ポッドキャスト番組にロイヤリティを支払う必要がない。

この件はスポティファイの元CFOのBarry McCarthyも認めていた。「ポッドキャスト番組の比率が増えれば増えるほど、スポティファイの利益率は高まることになる」と彼は述べていた。

ファンとのつながりを強化


一方で、独立系のアーティストにとってポッドキャストは、ラジオなどの伝統的メディアの枠組みに縛られない、プロモーションの場として活用できる。スポティファイはアーティストらに対し、傘下のAnchorのアプリ経由でポッドキャストを配信するよう呼びかけている。

同社はSpotify For Artistsのページで、ポッドキャスト番組を通じてファンとのダイレクトなつながりを強化することを求めている。

2019年6月にオルタナティブ系のロックバンド、ピクシーズは新作アルバム「Beneath the Eyrie」の制作の舞台裏を、ポッドキャストを通じて披露し、再生回数を増大させることに成功した。米国のシンガーソングライターのMxmtoonも、デビューアルバムの告知をポッドキャストで行った。

アーティストがポッドキャストをプロモーション手段として重視するトレンドは、今後も加速していくだろう。それと同時に、スポティファイは同社のビジネスモデルをより強固なものにしていける。

編集=上田裕資

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