地域の強みである技術力を備えた中小企業と、北の玄関口という地の利を生かした地方創生―。 新潟市がスタートさせた「ニイガタスカイプロジェクト」は全国自治体の注目を浴びている。
幕末から明治期にかけての人口日本一都市が新潟だったことはあまり知られていない。近くに佐渡金山が あったこと、北前船の寄港地であったことで繁栄し、京都・江戸と並ぶ花街とし て「新潟・古町芸者」が、江戸末期の「名所絵図」に描かれてもいる。しかし、現在の新潟は一般的に、米どころ、酒どころ、雪国と思われており、かつて大都市だったというメージはほとんどない。
しかし、「北の玄関口」としての地理的優位性は今も昔も変わらない。実際にも新潟空港・新潟港は中国、ロシアの 航路をもち、多くの人や貨物が出入りしている。新潟市では「日本海拠点都市」 をテーマに改革に取り組んできた。
その中心的役割を果たしたのが、新潟市役所商工振興課の工業担当者だった宮崎博人だ。宮崎が職務として新潟空港活性化を議論していく中で誕生したのが「ニイガタスカイプロジェクト」だ。
「空港というのは本来、航空機の多様 な用途と結びつく産業の基盤であるのに、 単に飛行機が発着するだけの場所と考えられていた。空港をもっと産業のために使いたいと思いたった」(宮崎氏)
幸い、新潟には大企業こそ少ないが、 燕三条に象徴される世界レベルの技術力を誇る中小企業が集まっている。宮崎は すでに関東圏で進んでいた、航空産業 振興のためのクラスター事業に注目した。中小企業がグループ化して航空部品をつくるという「戦略的複合共同工場」だ。2008年、市の航空産業立地推進室 長の地位に就いた宮崎がリーダーとなり 「新潟市を航空機産業の一大拠点にしよう」と、市の産業振興財団、新潟大学、37社の地場企業、いわゆる産官学が協 力してスタートしたのが「ニイガタスカイ プロジェクト」だった。西蒲区漆山企業 団 地に共同工場を設立し、 新会社 JASPAを設立して、航空機のエンジン部品工場が稼働している。事業費46億円は国の補助と銀行ローンでまかなった。
「設立から6年。今では小型ジェットエンジン『新潟エンジン4号』が世界トップレベルの環境対応特性で高い評価を受けている。発電タービンにも応用でき、用途は広い。また、人気の無人飛行機の研究開発も進めていて、すでに試作機を発表。3年後の完全自動操縦の実現と、量産化を目指しています」(宮崎氏)
新潟市のこの試みは、地方創生としても多くの自治体から強い関心をもたれ、 見学希望者が引きも切らない。13年には 「地域イノベーション戦略推進地域」(文科省・経産省・農水省)に選定された。
ひとりシンクタンク「2010」代表を務め、 ベンチャー企業の取材を続けてきたジャーナリストの早川和宏は、新潟市のこのプロジェクトをこう評する。
「地域のもつ潜在力を生かした取り組み として考えれば理にかなっている。しかし、親方日の丸、前例重視というイメー ジがあるお役所仕事からすると、いくら地方創生のためとはいえ、市がリーダーシップをとって航空産業にチャレンジする というのは前代未聞。まさにベンチャー精神にあふれているといえます。航空機 産業は将来性もある。初期投資さえ乗り越えれば採算性も見込める。今後の展開に注目しています」