震源地産の米、被害地産のパルミジャーノ・レッジャーノを使って
状況を変えたのは意外にも、伝統に立ち帰った「スペシャル・ラグーソースのタッリャテッレ」だった。
「祖母の料理を起点にしたんです。祖母がいつも作ってくれていたものです。母も好きで作っていましたしね。そこに、新しいテクニックを応用していったんです。そしたら、ある料理評論家の方が、交通事故がきっかけでうちのレストランに立ち寄られて、その際にお忍びで食事されたことがあったんです。出がけに、『今まで食べた中で一番美味いタッリャテッレだったよ』なんて言ってくださってね。これはもう、願ってもないことだったんですが、粘り続けたかいがあったとも言えるし、それを後押ししてくれた妻のおかげでもあります」
バッファローミルクとアンチョビのキタッラスパゲッティ、モデナ風レモンアマトリチャーナ(Getty Images)
アイデアの「質」が決定的な要因となったことは言うまでもないが、アートからヒントを得ること、そして「人はだれもが芸術家であって、自分のなすことに自覚をもっていさえすればいい」のだと信じ、挑んでいくことも重要だ。ボットゥーラによれば、「自分のためだけでなく、とくに他者のために」。これをいつも意識しておくことが有能なリーダーを作るのだという。そして何よりも、自分の仕事は社会貢献につながるということも、忘れてはならない。
「2012年に地震が発生して、そのとき、非常に多くのパルミジャーノ・レッジャーノが破損してしまい、一刻も早く販売する必要があったんです。そのとき協同組合から、地元のために何かしてもらえないかと頼まれました」。このときもまた、アイデアの「質」が彼を助けることになる。
ここでマッシモ・ボットゥーラは、「チーズと黒胡椒のリゾット(カーチョ・エ・ペーぺ)」を考案することになる。(訳者注:カーチョ・エ・ペーぺというと、羊乳から作るペコリーノチーズと黒胡椒を使ったパスタ料理が一般的だが)彼はここにフィナーレエミリア(訳者注:震源地となった町)産の米を使い、チーズを多用するこのレシピに、地震の被害を被った地元産パルミジャーノ・レッジャーノを利用するという方法をとった。
このレシピの発案により、パルミジャーノ・レッジャーノと黒胡椒のレシピが世界中で調理されることとなり、このチーズの大量注文につながった。結果、36万個を完売し、パルミジャーノ生産に従事する多くの人たちを救うという快挙を達成したのだ。