「リーダーとは、その集団を成功へと導く有能な先導者だ」というのは、リーダシップを語るうえでよく言われることのひとつだ。リーダシップとは、チームとともに、掲げた目標を達成する能力を指している。
だが、「掲げた目標」と「実際に起こること」の狭間では、軌道修正を迫られたり、緊迫した状況に直面したり、想定外の方向転換をせざるを得ない事態が発生したりするのが常だ。そのことで、目標達成は延び延びになり、果たして今進んでいるのが正しい道なのか、いや、いっそすべてあきらめるべきではないか、という思いに駆られることも多々ある。
こんな状況は、音楽業界から、サッカー界、そして食の世界まで、あらゆる分野で発生する。
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星付きシェフを例に挙げれば、社会的名声に傷がつき失望する可能性を伴いながら、新しいアイデアに挑戦する構想を温めていたりするものだ。あえて挑戦することから得られる新しい可能性、たとえ期待する評価にすぐにはつながらなくても、まずは喜ばれる一皿。そういったものをひそかに狙っているのが彼らだ。ミラノでパフォーマンス・ストラテジーズ社が開催した「リーダーシップフォーラム」で、マッシモ・ボットゥーラが語った。
唯一のビジネスプランは「3つ星」
もっとも注目されるシェフのひとりであり、「いまだ倦かず、厨房での気持ちのたかぶりを忘れず、好奇心に満ちた、まるで子供のような眼差しを持ちつづける」あるシェフは、モデナのステッラ通りに自身のレストラン(かの世界的有名店「オステリア・フランチェスカーナ」)を開いた。当時、父に「いつかこの町に、ミシュランの3つ星を持ってくるよ」と誓ったという。「これがぼくの唯一のビジネスプランだったんです」
マッシモ・ボットゥーラはこれまで、料理のなかに自身のアイデンティティ、可能性、テクニック、挑戦する姿勢、そして思い出を盛り込んできた。
「ステッラ通りにはこれといった特別な景観はないので、ぼくらの視界を広げてくれるもの、限りない可能性を開いてくれるものはただ一つ、『文化』なんです。ですから、ぼくらが厨房で力を注ぐことはアイデアをどう形にするか、という部分です。
たとえば、自然の美しさにヒントを得たり。とくに今はこれまで以上に社会問題にインスパイアされていますね。ここに来てくださる方は、美味しいものを食べにというよりはむしろ、『感動を噛みしめに』来てくださるんですよ」
「オステリア・フランチェスカーナ」が辿った道のりは、決して平坦なものではない。とはいえ、さまざまな試みや実験的な試みは注目されたし、それらに対するある程度の評価も得ていた。しかし、掲げた目標を達成するまでには至らなかった。
シェフは「伝統と決別して」、「セミ・ゼリー状ブイヨンの上を歩くトルテッリーニ」や、熟成期間の異なるパルミジャーノ・レッジャーノを盛りつけたプレートを創作したこともある。
「熟成期間はそれぞれ48、58、50カ月で、『パルミジャーノ、そして時間』というたった2つの材料からなる一皿でした」
しかし、待望の星獲得とはならなかった。ボットゥーラはすべてを投げ出してロンドンへ行くことも考えたが、妻からの助言もあってもう1年続投しようと決意したとき、待ちに待った星を獲得することになる。