劇的にクリーンなガソリン車を実現する「プラズマ」の力

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カリフォルニアのスタートアップが画期的なエンジン点火装置を開発した。この点火装置は有害物質の排出を減らし、省エネにもなるという。現在使われている点火プラグは100年前に開発されたもので、EVが広く普及するまでの間、この新システムが環境汚染の軽減に貢献することが期待される。

カリフォルニア州トーランスに本拠を置く「Transient Plasma Systems(TPS)」が開発した点火装置は、エンジンの点火プラグやイグニッションコイルの代わりに低温プラズマを使用する。

TPSの共同創業者兼CEOのDan Singletonによると、既存のスパークプラグの問題点は、燃料と空気の混合比が最適でないと強い燃焼が生じないことだという。

「我々のテクノロジーを使えば混合比の制約がなくなる。自動車メーカーは、数十年もの間新しい燃焼モードの開発に取り組んできたが、その必要もなくなる。燃料が薄い混合気を使っても燃焼させることができるが、その場合は低温で燃焼するため窒素酸化物の排出を抑えることができ、熱効率が向上するので省エネにもなる」とSingletonは話す。

彼によるとプラズマは一般名称で、スパークもプラズマの一種だという。スパークは大きなエネルギーを発生させる稲妻と同じく短波長だが、TPSの点火装置に用いるプラズマはスパークに比べてかなり低温だという。

「点火スパークでは、エネルギーの約1%しか混合気の点火に使われないが、低温プラズマではエネルギーの50%以上が燃焼に使われる」とSingletonは話す。

反応が速くなるため燃料が少なくて済み、燃料が薄い混合気でも燃焼するのだという。

Singletonは南カリフォルニア大学大学院に在学中、点火技術を研究していたMartin GundersenやJason Sanders博士、Andy Kuthi博士らと航空機の点火システムを調べ、専念するべき領域に気が付いたという。

EVの普及にはまだ時間がかかる


彼らは2009年に会社を設立した。会社の所在地はSingletonの自宅のガレージで、研究用のパルス発生器を航空宇宙会社に売却して資金を確保したという。その後、2014年に事業を飛躍させるため、オフィスを構えて従業員を雇用したという。

Singletonらはテクノロジーの精査をするため、サンディア国立研究所の燃焼研究所やアルゴンヌ国立研究所に技術を提供したほか論文を発表した。「その結果、自動車メーカーの注目を集めるようになった」とSingletonは話す。

TPSは技術の実現可能性を十分に検証した結果、ベンチャーキャピタルからの資金調達を模索し、昨年Kairos Venturesが主導したシリーズAラウンドで850万ドルを調達した。

Singletonによると、TPSは点火装置を自社で製造するのではなく、テクノロジーを自動車メーカーや部品サプライヤーに売るかライセンスを供与するつもりだという。

自動車メーカーは、多額の資金を投じてガソリン車からEVに移行しようとしているが、EVが広く普及するまでは有害物質の排出削減が大きな課題となる。そこで役に立つのがTPSの点火装置だ。

「当面は従来の自動車が引き続き道路を走行し、有害物質を排出し続けるだろう。EVが普及するまでの間、進化のステップがもう1段必要だ。一気にEVが普及しない限り、排ガス規制に対応するためにエンジンを、クリーンで省エネなものにしなければならない」とSingletonは語った。

編集=上田裕資

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