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2020.03.07 11:30

医師本人に聞いた「医者の取り扱い方」。診察室での正解問答とは

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風邪や微熱、不眠気味といった日常的な体調不良から、入院や外科手術などを要するものまで、私たちを悩ませるさまざまな不調。だが、「診察でどう説明したらいいのか……」と戸惑い、「医師の説明がイマイチわからない」とイライラし、「こんな質問や要望をしてもいいのだろうか?」などと不安になった経験も少なくないだろう。

医者のトリセツ 最善の治療を受けるための20の心得』(世界文化社刊)の著者で、対医療者コミュニケーションや、医療と社会の関わりに関するテーマを研究する尾藤誠司医師は、「患者と医師の思考は違っていて当然。だからこそ、医師の専門的かつ独特な思考回路を理解して━━つまりは取り扱い方を心得て、十分に活用すればいいのです」と語る。

本書は、総合内科医として多くの患者を診察し、また医師と患者のコミュニケーションについて考え続けてきた尾藤医師が、自らの経験や医療現場で見聞きした医師のホンネやエピソードを元に書いた「医者の取り扱い説明書」だ。その例を抜粋してみよう。


痛みを取ってほしい患者、原因を突き止めたい医師


初診で医師から最初に投げかけられる「どうしましたか?」の質問。一見簡単そうで、実は的確に答えるのが非常に難しく、患者が医師との良好なコミュニケーションを図るうえで最初に立ちはだかる壁だといえます。

なぜ難しいのか。ズバリ、問診で患者さんが訴えたいことと医師が知りたいことがズレているからです。

患者さんは「頭が痛くてつらいから早く痛みを取ってほしい」と訴える。医師はその原因を突き止めるために役に立つ情報が欲しい。問診は、医師が病気を診断する目的で行う患者さんへのインタビューです。「どうしましたか?」には、「さまざまな可能性を絞り込む判断材料が欲しいので、あなたの体に起きていることを教えてください」という意味が込められているのです。


イラスト/平松昭子

したがって「つらい。怖い。心配だ」などの心情や「私は逆流性食道炎だと思うのですが」「本で調べたら気胸のようです」といった自己解釈や受け売り、あるいは「妻がどうしても病院に行けとうるさいので……」のような夫婦の会話は、まずは脇に置いておくのが賢明かもしれません。限られた時間の中でそんな説明が続くと、医師はなかなか本題に入れずについいらいらしがちです。

医師が「この患者さんの診断はスムーズに進みそうだ」と目を輝かせるような答えとはどのようなものか。患者さんが伝えるべきポイントが二つあります。

症状の変化を、時間を追って友達に伝えるように話す


一つ目は医師が真っ先に知りたい「主訴」。「頭が痛い。おなかが痛い。めまいがする」など困り事をひと言で簡潔に伝えると、まずはそれがカルテの最初に書かれます。

二つ目は最初に具合が悪くなったときから現在に至るまでのストーリー。その症状がいつどのように始まり、どう変化してきたかの経過を話すのです。

ポイントは、時間軸に沿って順序よく語ること。もし最初に「もともと頭痛持ちなのですが」「頭痛知らずだったのですが」といったひと言が加われば完璧。相手が医師だからといって気負ったり緊張したりせず、自分の身に起きたことを「ちょっと聞いてよ」と友達に伝えるようなつもりで話してくれるととてもわかりやすいのです。

ここまでくれば、医師の頭の中にはいくつかの可能性が残されるはず。患者さんは、さらに絞り込むために投げかけられる質問に対して、感情や自己分析など余計な言葉をはさまずに答えていけばよいのです。質問が細かくて「根掘り葉掘り」と感じるかもしれませんが、問診は病気の診断という〝犯人探し〟の推理と同じ。患者さんの体に生じた客観的な出来事や状況が、医師にとっては重要な手がかりとなりうるのです。

治療法は誰が決める?:安易に言ってはいけない、「お任せします」


医師の説明を聞き終わると、いよいよ治療法の選択という重大な局面を迎えます。このとき、患者が医師に対して使いがちだけれど、安易に口に出してしまうと望まない結果を招きかねない危ない言葉があります。「お任せします」この言葉が頭に浮かんだら、どのような思いで任せようとしているのかを自分に問いかけたほうがいいでしょう。



イラスト/平松昭子

つきあいの長いかかりつけ医など、相手への信頼がベースにあり、「この先生なら間違いなく私を、私にとって最善の道に導いてくれるだろう」との確信に基づいて積極的に任せようと思うのか。それとも「自分で考えるのが面倒くさいから任せてしまおう」「難しくて手に負えないので任せるしかない」など、消極的な動機からなのか……。たとえば、がんのような重大な疾患で大病院にかかり、まだつきあいの浅い医師と向き合った場合は、自ずと後者のケースが多くなるでしょう。これは患者さんの〝主体性の放棄〟にほかならず、治療方針が不本意な方向に進んでしまう可能性があります。なぜなら「お任せします」といわれた医師は、「患者さんは私の説明をきちんと理解し、私を信頼して任せてくれた」と勘違いし、患者さんにとってではなく医師が最善と思う治療法を迷わず選択することになるからです。

必要なのは、医師との相談。「絶対に嫌だ」と思うことを伝える


安易に医師に委ねるのでなく、自分自身で最善の決断をするための基本は、時間と心の余裕を持って対応すること。結論をいつまで待てるかを確かめ、その間に情報や自分の考えを整理し、信頼できる人と相談する期間などを設けることが大事です。この場合、治療のバリエーションは多いほうが、望ましい道を選べる可能性も広がります。より多くの選択肢を提案してもらうには、医師に自分の情報を伝えることが必要です。患者さんが医療に関する専門知識や十分な情報を持たないのと同じように、医師には患者さんの仕事や家庭の事情、生きがいや趣味など価値観に関する十分な情報がありません。それらを医師と共有することで、治療を受けないという道も含めて選択肢が増え、より主体的に医療を受けることができます。

ポイントは、自分が「絶対に嫌だ。これだけは譲れない」と思う事柄や心配事を伝えること。痛いのは耐えられない、仕事を長期間休むわけにはいかない、食べる楽しみだけは奪われたくない、など。それらは裏を返せば自分が望む状況であり、医師の頭を刺激して「それならこういう方法もあります」と新たな提案がもたらされることにもつながります。

最善の医療は、患者さんの価値観や希望と、 医学的専門知識の両方を考え合わせて初めて実現するのです。

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