経済・社会

2020.02.03 17:00

盗聴されても友だちなのか? ジェフ・ベゾスと皇太子の不穏な背景

アマゾンのジェフ・ベゾスCEO(中央左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(中央右、2016年撮影)


その後、2019年の2月16日、ムハンマド皇太子のアカウントより、再度テキストが送付される。「ジェフへ」と慣れ親しくファーストネームで呼びかけると、「君が耳にしている噂や情報は全て誤りであり、誤りであることは時が経つにつれてわかることになる。私個人またはサウジアラビアの皇太子として、アマゾンまたは君個人に何らかの敵意を持っているものではない」と、また意味深なことを書いて、ベゾス氏に送りつけている。
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偶然にも、2日前の2月14日に、ベゾス氏は側近より、サウジ王国から発信されるワシントン・ポスト紙及びベゾス氏本人やアマゾンをターゲットとした、さまざまなインターネット上でのクレームや誹謗中傷について、電話を介して報告を受けており、先の意味深なテキストはその牽制でもあると受け取れる。

国家が他国に対して盗聴やハッキングすることは、大きな批判にさらされながらも、必要悪、または「他もやっている」といった形で黙認されてきた。

今回のFTIコンサルティングによる調査報告書の公開は、明らかにベゾス氏側からの「Show of force(力の誇示)」である。ここまで盗聴の事実についてわかっているのだと、サウジ王国側を威嚇しているのだ。ベゾス氏が直接、調査報告書の公開を指示したかどうかは明らかではないが、国家規模の金を動かすビジネスマンは、国家からの介入にも屈しない時代が、すでに到来したとも考えられる。
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「Show of force」とは、すでに国家の専売特許ではなく、民間でも起こしうることであり、事実、FTIコンサルティングの調査報告書の末部には、「まだ実施できていない調査アイテム」が列記されており、「やろうと思えば、まだいろいろ突き止めることはできる」ことを暗に伝えながら、これ以上の盗聴やハッキングは許さないといった威嚇をしているとも読める。

サウジ王国での事業計画は撤収すべきか


一方で、FTIコンサルティングの調査報告書の不完全さを批判する専門家も多い。ハッキングしたとはいえ、ベゾス氏のプライベート写真や情報を実際流したのはムハンマド皇太子ではないと本人自身が結論付けている節もあり、「それゆえ二人がいまも敵対していない」と見ている関係者は少なくない。

殺されたカショギ記者が雇われていたワシントン・ポストのオーナーは、ベゾス氏である。いわば「部下」を殺した犯人の背後にいる黒幕と、いまも親しいとなると、ベゾス氏の沽券にかかわる。

そもそも二人が親しくなったきっかけは、サウジアラビアにアマゾンが物流センターをすでに所有しているだけでなく、アマゾンが新たに研究開発センターをつくる計画がある。ベゾス氏は弔問参加や哀悼の意思表明をした。しかし、一部からは、アマゾンによるサウジ王国での研究開発センターの計画を凍結ではなく完全撤収すべきと批判されている。

カショギ氏の一周忌に参列したジェフ・ベゾスとカショギ氏のフィアンセ
カショギ氏の一周忌に参列したジェフ・ベゾスとカショギ氏のフィアンセのHatice Cengiz(Getty Images)

だからこそ、自分も被害者であることをアピールする必要があったのではないか。そして、FTI調査報告が2019年11月に作成されながら、いまなぜ公開されたか、数々の疑念を考えると、FTIの調査報告書やメディア報道を鵜呑みにするのではなく、後継の調査や報道への分析が引き続き求められる。

いずれにせよ、これからの経済的な成功者は、ステレオタイプに高級車や監視カメラ付き豪邸を買うことにとどまらず、ビジネスやプライベートを死守するため、またはステイタスを守るためには、相手側を上回るアップグレードされた盗聴やハッキングなどの防衛策も求められる時代が到来しているのではないだろうか。

そのようななかでは、デジタルは筒抜けという前提のもと、大事な話や言葉は自分の足で伝えに行くという、昔からの当たり前の慣習が、再度、着目されるという皮肉な時代でもある。

文=山崎ロイ

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