苦境の時代から西武を復活させた経営者、西武ホールディングス代表取締役社長(兼 西武鉄道取締役会長)の後藤高志は、所沢駅周辺の開発事業、メットライフドームのボールパーク化など、次の一手を着実に打ち続けているが、今回の遊園地リニューアルは、残された最後の改革とも言えるだろう。そして、そのパートナーに刀の森岡を選んだ。
森岡といえば、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の業績をV字回復させるなど、数学的思考と大胆な戦略で実績を残す無二のプロフェッショナルマーケターだ。“成功の公式”を持つと言われる森岡をもってしても、「私にとって、とても高いハードル」という今回の全面リニューアル。会見の来場者の多くも、同様に感じる雰囲気があった。なぜなら、郊外の大型レジャー施設が人気を呼ぶには厳しい時代であることを皆がなんとなく感じているからだ。
これはただの改装ではない
会見が進むうちに、ひとつの明かりが見えてくる。それは、このリニューアルが、単に施設の改装、アトラクションの増設、ハイテク機器の導入などによってもたらされる「新しさ」ではないことだ。
古き良き日本をイメージしたコンセプトが披露された
森岡は、このプロジェクトを成功へ導くための思考を紹介した。
「刀での戦略とは、“消費者のあたまの中に何があるのか”を重視し読み解くことです。今回のケースでは、レジャー施設に行きたいという欲求の裏にある“本質的な欲求”のことです。これは言語化しにくいものですが、読み解いた結果としてあげられるポイントは、まず現状の施設にはブランドが無いことでした。ブランドとは、その場所でどんな体験や価値があるかをパッと思い浮かぶこと。消費者に選ばれるためにはその価値の定義が必要です。一番大きな価値とはなんでしょうか。それは“幸せ”です。幸せを実感して帰ってもらうのです」
価値づくりは、決して投資の規模の大きさではないと言う。
「遊園地がある所沢という商圏規模、キャラクターや映画を持っている施設ではない中で、新しい大規模遊具などに何千億円も投資するのはむしろやってはいけないこと。この点でまず、後藤会長と共感しました。では“幸せ”を感じてもらえるためにどうするか、私たちは、西武ゆうえんちの70年の歴史を逆手にとって、古さに価値を感じてもらえる作戦で行こうと、こう考えたわけです」
決して昭和のテーマではない
上記の動画は、古き良き日本、といったノスタルジックなコンセプトで新しさとは真逆。しかし森岡は計算ずくのようだ。
「これは決して昭和のテーマではありません。日本人の原体験です。刀が行った調査では、少し前の、日本が元気で、子どもたちが無条件で人々に愛され、時にはお節介なひとたちが関わり合う60年代頃の日本に、10代、20代の人たちが魅力を感じるのです。懐かしく感じてしまう回路が備わっている。若い人には新しくも懐かしい、ここに戦略のポイントがあると考えています」