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2020.01.04 15:00

ジェフ・ベゾスも注目の創薬ベンチャー、Insitroを生んだ女性教授

ダフニー・コラー/ Getty Images

科学者が他人から写真撮影を頼まれることは珍しいが、ダフニー・コラー(Daphne Koller)にとっては日常茶飯事だ。「自分がそれにふさわしい人間だとは思っていないので、気おくれしてしまう」と彼女は話す。

20年間に渡ってコンピュータサイエンスと生物学や教育との橋渡しをしてきたコラーは、テック業界のスターだ。彼女は18歳でエルサレムにあるヘブライ大学で修士号を取得し、26歳でスタンフォード大学の教授に就任して機械学習を教えた。その10年後には、AIとゲノミクスを組み合わせた研究で天才賞と呼ばれるマッカーサー賞を受賞した。

さらに、世界中の人々が大学の授業を無料で受講できるプラットフォーム「Coursera(コーセラ)」を立ち上げ、評価額10億ドルにまで成長させた。

現在51歳のコラーは、サウス・サンフランシスコに本拠を置く創薬ベンチャー「Insitro」を設立し、大量のデータを解析して医薬品を開発することに取り組んでいる。この試みが成功すれば、創薬のあり方を根本から覆すことになる。

通常、生物学者は創薬のターゲットとなるたんぱく質をいくつか特定し、うまくいかない場合はデータサイエンティストが分析結果をもとに他のたんぱく質を提案する。これに対し、Insitroではあらかじめ大量のデータを収集した上で、「Crispr」などのゲノム編集技術や機械学習を創薬に応用している。

「生物学的データを大量に作成することがついに可能になった。十分なデータさえあれば、機械学習によって驚くべき成果を挙げることができる」とコラーは話す。Insitroでは、コンピュータの専門家と生物学者が一緒に研究を行って膨大なデータを作り出し、機械学習モデルを使ってパターンを分析して新たなテストや潜在的な治療法を発見している。

また、同社ではロボットがピペット操作(極微量のサンプルを正確に計測する)を行い、人為的なミスを防いでいる。こうした取り組みにより、通常は数年単位で掛かる実験を数週間で行うことが可能になったという。

ジェフ・ベゾスも出資

AIと生物学の両方に精通したコラーは、投資家から見て理想的な人材だ。彼女はInsitroの創業から6ヶ月も経たないうちに、ARCH Venturesやアンドリーセン・ホロウィッツ、Foresite Capital、アルファベット傘下のコーポレート・ベンチャーキャピタル「GV」やThird Rockから総額1億ドルを調達し、ジェフ・ベゾスも出資する予定だ。

2019年4月には、大手製薬会社「ギリアド・サイエンシズ」と非アルコール性脂肪肝疾患の治療法を見つける研究で提携した。Insitro は、前渡金として1500万ドルを受け取り、治療薬の開発につながる成果を挙げれば追加で10億ドルを受け取ることになる。将来、非アルコール性脂肪肝疾患は肝移植が必要になる最大の原因疾患になると考えられている。

「生物学とディープラーニングの両方を理解できる人材は少ない」とギリアドで肝臓病の臨床研究を率いるMani Subramanianは話す。Insitroがギリアドから付随報酬を受け取れるかは、創薬ターゲットとなる5種類のたんぱく質を特定し、肝臓病の治療薬として承認されるかに懸かっている。付随報酬には、治療薬のレベニュー・シェアも含まれている。
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編集=上田裕資

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