しかも、平成年間には日本の低迷を先取りするかのように、長崎経済は元気がなかった。
他方、長崎によく似た都市が米国にある。ワシントン州のシアトルだ。両者とも本土の西端に位置する港町で、漁業で栄え、国を代表する大企業の企業城下町である。水と緑が豊かな住みやすさ抜群の土地だ。坂の多い街並みも風情がある。面積もだいたい同じで、往年、シアトル市と長崎市の人口はいずれも45万人程度であった。
長崎市はこの30年間、じりじりと人口減少に見舞われ、いまや日本で転出超過人数トップの自治体になってしまった。反対に、シアトル市は6割も増やして74万人である。
シアトルにあって長崎にないものは何か。
まずは、マイクロソフト、アマゾン、スターバックス、コストコなどのユニコーン企業群だろう。シアトルはニューヨークなどの東部からも人々を呼び寄せているが、長崎には吸引力ある新興大企業がほぼない。
もう一つが、本格的なスポーツの拠点と大規模なコンベンション・センターの存在だ。
一昔前でも、シアトルでは日本人街のほど近くに巨大なドーム球場が威容を誇っていた。マリナーズの本拠地、キングドームであった。弱小メジャーリーグのマリナーズは、球場がセーフコ・フィールド、T─モバイル・パークと名を変え改築されるに従い強くなっていった。イチローの活躍は言うまでもない。
アメフトも盛んだ。ワシントン大学のハスキーズはローズボールを制した強豪であり、プロのシーホークスも人気チームである。
市の中心部に聳えるタワーが、シアトルのアイコンともいうべきスペースニードルだ。モノレールが行き交うその周辺から指呼の距離に、コンサートホールやコンベンション・センターが並ぶ。コンベンションの経済効果は既に年間400億円を超しており、近年中に1000億円に到達する勢いだという。