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エネルギー産業の活況を後ろ盾に、近年、国際社会で影響力を高めていたロシア。ところが、経済制裁と原油価格の下落で経済が暗転。勝者と敗者が逆転しつつある。

2013年3月、ドイチェ・バンクのフランクフルト本店では、銀行家と弁護士の一団が集まり、ある「送金劇」を見守っていた。その額、およそ280億ドル(約3兆3,600億円)。大金は、ロシアの国営石油会社「ロスネフチ」から、4人のロシアの大富豪が所有する銀行口座に振り込まれた。

 ミハイル・フリードマン(50)は、この取引から51億ドルを得てロシアで3番目の金持ちになり、彼の大学時代の仲間であるゲルマン・ハン(53)の懐ふところには33億ドルが入った。レン・ブラヴァトニック(57)は70億ドル、そして、現在ロシアで2番目の富豪ヴィクトル・ヴェクセリベルク(57)は70億ドルを手にした。

 英石油会社「BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)」が50%を所有し、残りの50%をロシアの4人の大富豪が所有していたロシア第3位の石油会社「TNK-BP」のロスネフチによる買収は、ウラジーミル・プーチン大統領へ権力を集中するための動きの一環であった。この取引の中心人物とは、ロスネフチの最高経営責任者であるイーゴリ・セーチン(55)。「ダース・ベイダー」の異名を持つ彼は、プーチンの次に力があると言われている。セーチンは、オリガルヒ(新興財閥)たちに身のほどをわきまえさせたくなるようで、交渉で彼らを苦しめたり、会議にわざと遅れたりすることでも有名だ。

(中略)富豪たちの銀行口座に27,778,900,132.16ドルの残高が記録され、初めて取引は済んだとされた。「これは極めて有益な取引であり、ロシアのエネルギー部門だけでなく、経済全体にとって重要なものだ」
 取引後の発表で、有頂天になったプーチンはそう大々的にぶちあげた。

 ロスネフチは、TNK-BPを550億ドルで買収した結果、上場企業のなかでは世界最大の石油会社となった。セーチンは「世界のエネルギー王」としての地位を確立したわけが、おそらくは背後で操っているのはプーチンだろう。

 セーチンとプーチンによるTNK-BP買収は、ロシアにとって戦略的に「有益な取引」だったかもしれない。その一方で、フリードマンやハン、ブラヴァトニック、ヴェクセリベルクら富豪は合計資産が550億ドルほどになった。

(中略)

石油マネーでのし上がった富豪たち
 03年にBPは、フリードマンとその仲間の富豪たちが経営する石油会社「TNK(チュメニオイル)」と、持ち株を折半した合弁企業「TNK-BP」を立ち上げた。年間売り上げは600億ドルに達し、10年間にわたって数百億ドルの配当をオーナーにもたらすとされていた。

 実際、TNK-BP が生みだす収益により、4人のロシア人は世界でも有数の富豪になった。そして、石油備蓄の27%に当たる量の原油を提供されたBPは、石油メジャーとしての地位を確固たるものにした。
 ところが、11年にカラ海の採掘権を競合のエクソンモービルに奪われるなど、いくつかの問題が起こると、BPはTNK-BP 株をロスネフチに売却することに決めた。BPは、その代金として125億ドルとロスネフチ株の19.75%を受け取った。これにより、BPはロスネフチの石油備蓄の一部を資産に計上できるようになったので、BPにとって大きな意味があった。

 ロシアの億万長者たちにとっての最善の選択肢は、プーチンの側近で、巨大な石油会社をつくることに熱心な元副首相のセーチンに、彼らが持つ50%の株すべてを売ることであった。彼らは、セーチンの支配するロスネフチで少数株主になることは望んでいなかったので、現金による買い取りがカギであった。

 セーチンもまた、この抜け目のない4人組にさらに株式を発行して、自らの支配力を弱めるようなリスクは避けたかった。ただ彼には、すべての株式を買い取るだけの資金がなかった。そこで取引を済ませるため、セーチンは外貨建ての短期融資で約400億ドルの現金を借り入れたのだ。JPモルガン・チェースやバークレイズ、BNPパリバなど、世界中の銀行が融資に参加した。

原油価格の暴落という「誤算」
 それから1年ほど経った14年秋、ロスネフチは突然、困難な状況に直面することになった。短期融資の支払期日が迫るなか、クリミア侵攻でロシアには厳しい経済制裁が科されていた。加えて、サウジアラビアが、OPEC加盟国やロシアなどの他の生産者、アメリカのシェールガス生産者を牽制するために、石油価格を暴落させたのだ。

 ロスネフチは西側の銀行から融資を受けられなくなり、12月に期限を迎える外貨建ての70億ドルを超える融資の決済を先延ばしすることが難しくなってしまった。そこでセーチンは、ロシア中央銀行の支援のもと、ルーブルを調達するために債券を発行した。

(中略)しかし、債券の買い手は明らかにされておらず、どれだけの資金が調達されたかも依然として不明である。

 プーチンを批判する人々は、債券の発行は「ロスネフチを救済するためだ」と批判しているが、セーチンはそれに対して「言いがかりだ」と反論している。ロスネフチは、「債券を発行して得たルーブルが、外貨獲得のために使われることはない」と、公式に表明している。


虚空に消えるプーチンのSOS
 ロスネフチの動きが、すでに弱気なルーブルの市場をいっそう混乱させているのは明白だ。2兆ドルに上るロシアのGDP(国内総生産)の約19%に相当する石油輸出は、ロシアの稼ぎ頭で課税額は大きい。石油の輸出価格が1バレル100ドルだと、そのうちの70ドルは国庫に入る。1バレル50ドルだと、約22ドルだ。

 ロスネフチは昨秋、債務の支払いに備えて外貨を手元にとどめておいたと思われる。事実、12月下旬に70億ドルの債務を返済している。数日後には、ロシア政府が、同国の大手輸出企業に対して通貨市場でルーブルを買い支えるように指示した。

 もちろん、ロスネフチもこれに従った一社かもしれない。しかし、15年に200億ドルの債務の支払期限が迫り、200億ドルの設備投資も予定されているため、同社は目下、400億ドルに上る資産調達という「頭痛の種」を抱えている。しかも、石油価格が下がるたびに状況は悪化するのだ。
 ロスネフチの資産報告によると、同社には200億ドルほどの現金がまだ残っているものの、公式にロシア政府に対して国民福祉基金からの支援を求めている。セーチンはプーチンに助けを求めているわけだが、再び債券を使って「救済」すれば、今度こそルーブルに破滅的な結果をもたらすだろう。

 ロシア経済が危機に陥り、プーチンたっての要請があっても、フリードマンやハン、ブラヴァトニック、ヴェクセリベルクたち富豪からは、ロシアを救済しようとする動きが見られない。
 また、ロスネフチの株価が14 年に50%も下落したにもかかわらず、プーチンは盟友のセーチンを「良い経営者だ」と擁護している。

 BPは依然ロスネフチ株式の20%を所有しているが、第4四半期収益の減少を予想しており、ロスネフチ株に評価損を計上しなければならないかもしれない。「TNK-BP 取引は、ロシアにとって高い買い物になった」と、13年に亡命したエコノミストのセルゲイ・グリーブは語る。「でも、TNKの所有者たちにとっては、とても美味しい取引でしたね」

文=ネイサン・バルディ

 

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