先生1人対学生1人で学ぶ「チュートリアルシステム」
ケンブリッジ大学の学友たちと(前列左側が筆者)
ケンブリッジ大学は約30のカレッジ(学寮)を構えており、その学寮で先生と学生が生活を共にし、先生1対学生1(場合によっては1対2)で学ぶ「チュートリアルシステム(Tutorial System)」が特徴です。先生にあたる人は「チューター(Tutor)」と呼ばれ、これを日本語にすると家庭教師の意味が当てはまります。ケンブリッジ大学での私の専攻科目は数学と経済でした。
ケンブリッジ大学のチューターたちは、同大学を卒業した人が3割、世界各国から招聘された人たちで7割です。世界最高峰の大学でチューターを務める人物は同大学の卒業生が多数を占めていると思われがちですが、同校ではあえて外部から多くの人材をチューターとして採用しています。
これは、本来人の能力や個性はそれぞれ異なるものであり、画一的かつ形骸化した学びは個々の能力や個性を伸ばすことができないという考えに基づいています。また、人材が固定化し偏見や派閥などが生まれることを避けることも目的としています。常に世界中から新しい優秀な人材を採用することで風通しを良くし、異文化や外部の知識を取り入れることで、大学全体でマルチカルチャーな文化が浸透していることが設立以来800年以上の伝統を維持できる秘訣なのです。
ここで読者の皆さんが不思議に思われるであろう、学生とチューターの割合がほぼ半々であれば、チューターの人件費や大学の運営費が高額になるということについてです。現在の英国では学校の数が増えたため、地域の自治体による予算の運営から生徒・学生が授業料を払う運営に変わりましたが、ケンブリッジ大学で特徴的なのは学生による授業料収入以外にも、資金繰りを行う優秀な人材が多数存在することです。常に多くの支援者に同大学でのグローバルリーダーの教育と育成に理解を求め、寄付を募ることで大学の運営が成り立っています。
多様性に満ちた、フェアの文化が浸透した学び舎
私が学んだ数学や経済の話はそれほど面白くないので割愛しますが、ケンブリッジ大学で学んだ3年間を一言で述べるとすると、それは「多様性とフェア」に他ならないと考えています。今でこそ日本では女性の活用を積極的に進めたり、LGBTの方々が平等を求め活動を行ったりと、ようやく「ダイバーシティ」や「多様性」という言葉が浸透してきましたが、ケンブリッジ大学ではそのような言葉や文化が浸透するずっと以前から、既に多様化されていることが当たり前の文化と環境があるのです。
人種、国籍、性別などの隔たりという概念が存在せず、誰もがフェアな立場で学ぶ環境がある。英国の4年間の学校生活で、私が日本人であることや英語があまり上手ではなかったこと、お金がなかったことなどで差別を受けたことは一度もなく、いじめを受けている学友も一切見たことはありませんでした。これは、全ての人々にフェアの精神が根付いているからなのだと考えています。
常にフェアに接してくれたケンブリッジ大学の学友たち(前列右から2番目が筆者)
このような素晴らしい文化と環境の中で、個々の個性や能力を伸ばす教育を多くの日本の人が受けることができたらどんなに素晴らしいことだろう。それにより、日本だけでなく世界を牽引するようなリーダーが多く生まれるのではないか。この考えから、英国で学び日本に還元したいものの答えが具体化したのです。
1967年、3年間の充実した大学生活を終え卒業を迎えました。これから英国で学んだことを生かし日本に還元するものの実現と、生涯をかけて英国に恩返しをするための私の新たな人生がここから始まろうとしていました。
連載:グローバルリーダーの育成法
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