自然災害は古来より人類の共通した“敵”であり続けてきたが、近年では人工知能を使ってこれを予測し、被害をできるだけ防ごうという動きが目立ち始めている。
すでに認知度が高まってきている「災害予測AI」としては、グーグルの「洪水予測システム」がある。
グーグルの副社長ヨシ・マティアス氏は、毎年約2億3000万人の人々が洪水により被害を受けていると指摘。同システムは、洪水が発生する可能性が高い地域を予測し、近隣住民に避難を促す仕組みとなっている。グーグル側は精度が90%以上に達したとも報告しており、インドを皮切りに世界各地に導入していく計画を明かしている。
最近では、「エルニーニョ現象」をいち早く予測するためのAI技術開発でも前進があった。韓国・全南大学校地球環境科学部の研究チームは9月、エルニーニョ現象の発達や強度を、最速で18カ月前に予測できるAIモデルを開発したと発表した。これまでの予測モデルでは通常8〜9カ月、最も早くても12カ月前の予測が限界だったが、その壁をディープランニングでクリアしたというものだ。
さらに開発されたAIは、地球への影響や被害様相が大きく異なる、中太平洋エルニーニョ(CPエルニーニョ)と東太平洋エルニーニョ(EPエルニーニョ)を明確に区分・予測する。これまでの予測モデルはタイプ別に区分をする機能が弱かったため、エルニーニョによって発生する干ばつ、洪水、食料の確保など、各災害時の備えが容易ではなかった。なお同論文は「ディープラーニングを使ったエルニーニョの中長期予測」(Deep learning for multi-year ENSO forecasts)という題名でまとめられている。
地球で起きる自然現象のすべてを正確に予測したり、また予測できたからといって被害そのものを完全に防ぐことは難しいかもしれない。それでも、人命や経済的損失を極力減していくことは可能になるだろう。自然に対して、「転ばぬ先の杖」ならぬ「転ばぬ先のAI」となるか。異常気象が世界各国で増える昨今、AIの真価が問われるユースケースのひとつとなるだろう。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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