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2019.09.08

どこまで速くなる? ブガッティ・シロンが時速490kmで世界最速記録

ブガッティ・シロン

いったいどれだけ速ければ「速い」と呼べるのだろう? 時速100km、それとも200km……日本では、多くのドライバーは時速110kmを超えると心配になるようだ。

しかし世界にはとんでもなく速いクルマがある。先月、ドイツのエーラ・レシエン・テストコースで、ルマンでも優勝しているレーサー、アンディ・ウォレスが乗ったブガッティ シロンは、時速490.48キロを記録した。市販車としては世界最速記録だ。

でも、いったいなぜブガッティは時速483kmを超えることにそんなにこだわるのか。それは、時速300マイルの壁を超える初のカーメーカーになりたいからだ。



これまでの最高スピードは、スウェーデン産のカーネグセグ・アテーラRSが2017年に打ち立てた時速457kmだった。

「この記録を破れば、世界最速の車を完成させるという長きにわたる追究がついに達成されるのだ」と、ブガッティのステファン・ヴィンケルマンCEOは言う。「これまでにも、何回か世界で最も速いクルマを作っているので、これからは別の方向に集中することになるだろう」

確かにこのコメントは理にかなっている。常に最速のクルマを生み出そうとすれば、開発とテストに多額の資金と多くのマンパワーをつぎ込まなくてはならない。さらに、それだけのクルマを開発して販売するには、あらゆる部門にとてつもないインプットが必要となり、それが自分の首を絞めることになるからだ。

チーフ・デザイナーのフランク・ヘイルによれば、最大のチャレンジとは、全体として最適なパッケージを実現することだ。デザイン、空力抵抗、エンジンパワー、そしてタイヤが優れているということももちろん重要ではあるものの、それだけでは十分ではない。すべてにおいて最適化され、バランスが取れてなくてはならない。世界最速の記録を達成するには、その時の天候にも適してなくてはならない。

悲願の記録達成のために、このモデルは標準仕様のシロンより25cm長くなっている。リア・ウィングとエアブレーキは取り外すことによって、抵抗が減り、ダウンフォースの効果を高めるために、ディフューザーは標準より格段に大きくしてある。

パワーはどうなっているかというと、シロンの4ターボ8.0リットルW16エンジンは1500超馬力を叩き出し、全輪に送り込んでいる。タイヤは広範囲に及ぶ開発とテストを重ね、特別の素材と補強を用いたミシュラン製だ。ブガッティ社によれば、アメリカで行ったテストで、タイヤは時速511kmで毎分4100回転に耐える強度を求められたそうだ。記録に挑戦する際には、タイヤに欠陥がないように、1本ずつX線を使ってチェックしたという。



何本かの練習走行の後、タイヤのウォーミングアップのために1ラップ走り、それから8.8kmの長いストレートを使って最高速度を叩き出したと、アンディ・ウォレスは語る。

こうして300マイルの壁が見事破られた。だとしたら、この記録を破ろうとするカーメーカーが出てきてもおかしくない。いや、時速500kmに挑もうとするメーカーがきっと出てくるに違いない。それが人間の本性というものではないか。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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文=ピーター・ライオン

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