悪臭が強烈になり、蚊も大繁殖する。雑草は伸び放題になり、野生のコヨーテが住み着くようになった。実際、近所の子犬が、コヨーテに食い殺されたという報告を、町内会のニュースレターで読んだし、筆者もゴルフ場で、人間の姿を恐れずに悠々と歩くコヨーテを見かけたときには度肝を抜かれた。
ゴルフ場に現れるコヨーテ by Shutterstock
ゴルフ場を買った会社は、芝が枯れきったら、そこに膨大な数の庶民的な住宅を建てるプランだったという。
たまたまこの地区は、市がゴルフ場会社に土地を売った時に、50年間はゴルフ場の形態を維持するという約束を交わしていたため、この「異変」とともに、地域住民は弁護団を組んで、訴訟に持ち込み、この当初の契約をもとに、新オーナーに圧力をかけ、和解の形でゴルフ場の再開に持ち込んだ。
97%の経営者がゴルフ場をやめたい
しかし、楽観はできない。ゴルフ場を維持するという契約であったとしても、その契約の相手方はもう売却していなくなったわけだから、新オーナーにどこまで遵守義務があるのかは微妙だ。
裁判所は、新オーナーに賠償金を命ずることはできても、ゴルフ場をやらせることはできない。新オーナーだってゴルフ場が経営不振ということで維持ができないということになれば、当然にして、賠償金を払う金はなく、さっさと破産宣告をして、「放置を続ける」という脅しをかける手段もある。
そして、価格をうんと落下させたあとで、この破産会社の資産を競売にかけ、姉妹会社にでも買わせれば目的を達成できる。住民も市役所も、醜い雑草と悪臭の池を放置するよりは、住宅地にしてもらったほうがいいと泣く泣く合意せざるを得ない。
結果として、いつ再びスプリンクラーが止まり、門が閉ざされるかということに住民はおびえており、最近この地区での不動産の売り抜けも立つようになった。そして、ゴルフ場を再開して1年も経っていないというのに、この新オーナーは新たに大きなショッピングセンターや住宅や駐車場等のコンプレックスでデベロップメントすることを市に申請していることがわかった。
WSJによれば、アメリカのゴルフ場100場にアンケートをしたところ、今の場所に、今後手を加えるとしたら、ゴルフ場として維持したいという業者は3%しかなく、42%は再開発、27%はイベント会場として空き地を保持するという結果だった。つまり97%のゴルフ場経営者は、できればゴルフ場をやめたいのだ。
これは、アメリカのドリームハウスの概念を一変させ、住宅事情をも変えてしまうかもしれない。豪勢に建てた家が、今後投げ売りされ、高級住宅地は一気にそのグレードを落とす。また、倒産したゴルフ場の行く末がわからない場合(権利調整に長時間がかかる場合)は、それらの住宅地は、醜い雑草隣接地帯ということで、ドリームから地獄の一丁目に真っ逆さまである。
こうしたことから、アメリカの大都市部では、治安が悪くなってスラム化したダウンタウンに、若い人を中心に、住民が戻ってくるようになった。
たかがゴルフ。されどゴルフ。ゴルフをしない人でも、ゴルフは今後の行方が気になるスポーツになってしまった。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
過去記事はこちら>>