ベテラン社員のキャリア面談の難しさ。それは個人により環境が違い過ぎる点にある。
社員が20代や30代の場合には、子どもがすでに独り立ちし、住宅ローンの返済や教育費に目途が付いたという人はほとんどいないだろう。老眼や更年期で悩んでいる人もいないだろうし、親の介護で全精力が奪われるという人もそれほど多くはないはずだ。職場内で置かれている環境を見ても、昇進面で同期から5ランクも6ランクも遅れをとった人はほとんどいないだろうし、長年人事異動から遠ざかっている人も少ないのではないか。
こうしたさまざまな環境の違いを抱える50代のベテラン社員と、若手・中堅社員との最も大きな違いは何か。それは昇進の壁にぶち当たった経験があるかどうかだ。
昇進を果たせなかったベテラン社員たちは、その局面とどう向き合ってきたのだろうか? その捉え方の違いによっては、その後の生き様にも大きく影響してくる。
ある50歳の男性社員との面談事例を紹介しよう。
──50歳になっても高い業績評価を継続できているのはすごいことですよね。
同僚たちからの評判を頼りに仕事をしているからでしょう。それが結果的に会社からの評価につながっているのだと思います。
──高評価が続いているのは、これまでの上司がみんなあなたのことを評価したからでしょう。それでも管理職に就いていないのは、何か理由があるのでしょうか?
人事部が行う昇格面談は30分です。30分の面談では、本来の私を伝えきれないのかもしれません。40代のころ、上司は毎年のように昇進の推薦をしてくれました。でも、毎回人事部の面談で落ちてしまうんです。そのとき、思ったんです。人事部には伝わらなくても、毎日一緒に仕事をする周囲の人たちに頼られる存在になればいいんだと。
──昇進は諦めたのですか?
はい。昇進に興味がなくなったなんていう強がりは言いません。正直言って、諦めました。でも、よく考えたら、それで良かったんです。人事部にはうまく伝わらないけど、周りの人はみんな私のことを認めてくれている。一緒に働く人が頼ってくれる毎日って、本当に楽しくて幸せなことなんですよ。
幸せを掴んだことで後悔を打ち消す
多くの人にとっては、何かを諦めるときには後悔がつきまとうもの。しかし彼の場合、「自分と一緒に仕事をする人から頼られる」ことで幸せを掴み、その後悔を打ち消したのである。
昇格面談では力が発揮できず、「自分はここまで」と自覚したときはきっと悩んだだろう。しかし発想を変え、ポジティブに捉えたことで、彼はいま、充実した日々を送っている。
昇進できない自分と向き合えない社員の中には、「勝ち負けにこだわるのはやめたんです」などと言う人もいる。一見潔いように思えるが、実は負け惜しみに過ぎない場合も多い。それはこの社員のように、別の何かで勝った人だけに許される言葉なのかもしれない。
さらに彼はこんな言葉も続けた。
「人事に不満があるのなら、私たちには『会社を辞める』という選択肢がある」
住宅ローンや教育費が残っているなら、会社を辞める選択は現実的ではない。しかし、この言葉は、彼が「周囲の評価を得られているから、昇進しなくても自分がこの組織で働き続けることができる」という結論を導き出すまでの葛藤によってたどり着いた言葉なのだろう。
昇進は会社員にとって大イベントだ。特に若いうちは競争にさらされ、勝ち負けにこだわる局面になる。しかし、自分が望んだ地位までたどり着くのはごく一握りだ。昇進できなった現実をどう捉えるかで、その後の人生観、仕事観が大きく変わる。