経済・社会

2019.08.11 17:00

テレビに愛されるトランプ氏と、米放送業界の「イコールタイム・ルール」

(ドナルド・トランプ大統領に扮した俳優・アレック・ボールドウィン GettyImages)


トランプ氏についての報道の宣伝効果は数十億ドル相当
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調査会社メディアクオントの集計では、トランプ氏についての報道は、2016年2月までに約19億ドル相当の宣伝効果(広告を出す費用がかからない、フリーメディアといわれる)があり、共和党の大統領候補の中で抜きんでていた。元フロリダ州知事ジェフ・ブッシュ氏や上院議員マルコ・ルビオ氏といった当初有力とされた共和党候補は、トランプ氏劇場と化したメディアのなかで、すっかりかすんでしまった。選挙戦全体では、トランプ氏がメディアから得た宣伝効果は、50億ドル以上に達したとみられている。

さて、日本のテレビ局は、アメリカほど政治を風刺するのを好まないようである。コメディアンが権力者を批判したり、笑いの対象にすることは少なく、そうしたコメディアンがテレビに出演することも、全くないわけではないが、アメリカよりはるかに少ない。

これはなぜなのか。テレビ局に勤める知り合い数人に聞いたところ、いろんな見方があった。(1)「政府批判」の番組ととらえられると、番組のスポンサー企業がいやがる(2)面白い政治家が少なく、放送したとしても、視聴率が取れない(3)放送法4条の「政治的公平」規定にひっかかる可能性がある(4)政権や自民党幹部に「公平でない」と文句をつけられると厄介、などである。
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テレビ局によって、あるいはそれぞれの番組制作現場において、事情は一様ではないだろう。他の理由もあるかもしれない。一つではなく、複合的な要因なのかもしれない。筆者はテレビの世界に詳しいわけではないので、何が原因なのかについて推測することは避けたい。

ただ、今でも川柳などでは政治風刺がきいたものもあり、日本人に風刺文化の伝統がないわけではない。テレビ的に「政治的偏向」が問題になるということであれば、与野党双方の政治家についてコメディアンが演じれば、日本の「放送法4条」にも抵触しないだろう。

「お笑い」の力も借りながら、政治に関心が高まっていくような自由闊達な空気が、テレビの世界でもっと広がってもよい気がする。




山脇岳志◎1964年兵庫県出身。朝日新聞入社後、経済部記者、オックスフォード大客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、GLOBE編集長、ベルリン自由大上級研究員、アメリカ総局長などを経て編集委員。コラム「多事奏論」を担当。近著に『現代アメリカ政治とメディア』(共著、東洋経済新報社、https://www.amazon.co.jp/dp/4492762477/)。京大大学院総合生存学館特任教授、東大公共政策大学院非常勤講師。

構成=石井節子

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