ソフトバンク孫正義の人生の師が語る、「孫君が成功した理由」

ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長 孫正義

孫正義が、「師であり、私にとっての吉田松陰」とまで言い切るのは、経営学者の野田一夫だ。 2人の付き合いはすでに40年にわたるが、果たして、野田から見た孫の魅力とは?


君は僕を「人生の師」とまで言ってくれる。もちろん冗談めいてのことだが、彼の性格を思えば、僕はその言葉を単なる「お世辞」とも思いたくなく、ひたすら恐縮しつつ、なぜか孫君に対して「ある種の責任めいた気持ち」を感じ続けてきている。孫君とは、出会ってからすでに40年近くにもなるが、今や1年に一度も会えないことすら珍しくないのに……。

時に会えばいまだ僕は彼を、自然に「孫ちゃん」と呼びかけてしまう。その孫君が、赤坂の僕のオフィスを突然訪ねてきたのは、孫君が九州で創業して間もなく、東京に出てきた1981年、つまり、孫君がいまだ20歳そこそこの頃だった。小柄で、今も変わらぬ「じつに人懐こい」笑顔を見せる好青年だったから、僕は今も鮮明に覚えている(笑)。

そもそも経営学者としての僕は若い頃から、「観念論」に明け暮れているような多くの“経営学者”の姿勢に反感を抱き、戦後の厳しい環境条件にめげず懸命に努力する企業経営者との出会いを通じて、僕自身も、「創業型経営者による企業成長論」、つまり単なる観念論者に終わらない経営学者をひたすら目指していた。だから、そんな僕の赤坂オフィスは自然に、「企業成長」を目指す若い経営者たちの「たまり場」になっていった。

集まってきた連中たちはみんな、成功を夢見る魅力的な若手経営者たちばかりだった。その中に、「ベンチャー三銃士」と呼ばれるソフトバンクの孫君、HISの澤田秀雄君、パソナの南部靖之君たちもいたわけだ。 孫君によれば、あるとき僕は彼らに、「君たちは『志』と『夢』の違いが分かるか」と問いかけ、そしてさらに、「夢は、クルマを買いたい、家を持ちたいといった快い願望だが、志は未来への真剣な挑戦だ。『志』と『夢』では次元が違う。『夢』を追うような男にはなるな!『高い志』を追いつづける人間になれ」など、と言ったという。

そんなことを本当に言ったかどうか、僕自身の記憶は定かではない。しかしそれは確かに、僕自身の想いだったのだ。「敗戦国」という戦後日本の苦境は、一方で強烈な「志」に裏打ちされた起業家を輩出し続けたと僕は信じている。
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文=船木春仁

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