家族がいない患者には治療が手抜きになる 独居老人に潜む現実

Chanin Wardkhian / Getty Images


結果は衝撃的だった。全てのケースで、何らかの医療行為を、家族がいない場合に医師は手控えることを選択していた。

最初のケースでは、家族がいた場合には56%の医師が人工呼吸管理を行うと回答したが、いなかった場合には39%だった。人工透析については、家族がいる場合には49%で、いない場合は34%だった。いずれも統計的に有意な差だ。

家族の存在が、人工呼吸管理、人工透析ののいずれの実施率も30%程度減らしたことになる。

一方、他の項目については、家族の有無は実施に影響しなかった。

家族の存在次第で医療のあり方が変わる

第2、第3のケースも傾向は同じだった。第2のケースでは人工呼吸管理を行うのは、家族がいる場合に31%で、いない場合は21%だった。他の10項目については統計的に有意な差はなかった。

この3つのケースに共通するのは、家族の存在が医師に積極的な医療を選択させることだ。積極的な治療が患者のためになるか、否かは状況によって異なり、一概には言えない。ただ、医師が患者の治療方針を選択する際に医師・患者以外の家族の存在が影響を与えることは注目に値する。患者の自己決定系を侵害する可能性がある。

現在、米国を中心に議論が進んでいる急変時などの治療方針を予め患者が意思表明すること(アドバンスケアプラニング)の制度化を検討する必要があるだろう。

ただ、このような意思表明も、現状では本当に機能するかわからない。それが第3の70歳の女性のケースだ。

彼女は明確に手術や延命治療を望んでいなかったという設定だったにもかかわらず、29%の医師が、家族の勧めに従って下肢切断と人工呼吸管理を選択していた。35%が心臓マッサージ、33%が人工呼吸管理、35%人工透析の実施を選択していた。

さらに、家族がいない場合にも、13%が手術、13%が心臓マッサージ、11%が人工呼吸器、17%が人工透析を選択していた。

以上の事実は、約10%の医師が患者や家族の意向とは無関係に、自らの判断に基づいて侵襲的な治療を選択すること、約20%の医師が患者が明確に意思を表明していても、家族の意向を優先して侵襲的な医療行為を行うことを示している。

前者は、患者の自己決定より自らの医学的判断を、後者は患者が亡くなったあとの訴訟リスクの回避を優先しているのであろう。

終末期医療の意思決定は難しい。医師は様々な要因に影響されながら、治療方針を決定しているからだ。我々の研究は家族の存在が患者の治療方針に大きく影響していることを示した。今後、独居老人が増加するわが国で示唆に富む所見だ。

どうすればいいのか。軽々に結論を下すことはできない。ただ、独居高齢者の皆さんには、担当する医師に治療方針を希望するだけでは、その意向が考慮されないことがあることを認識しておいていただきたい。確実に自らの意向を達成したいときには、第三者あるいは担当医以外のスタッフに意向を明確に伝えておく必要がありそうだ。

連載:現場からの医療改革
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文=上昌広

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