石川は今回、日本を代表するビジョンや才能を持つ30歳未満の30人を選出する名物企画「30 UNDER 30 JAPAN 2019」のエンタープライズ・ビジネス部門を受賞。
着実に成長を遂げているアイデミーだが、石川が学生起業してからAIオンライン学習サービスの事業にたどり着くまでの道のりは、試練の連続だった。
企業のAI活用を人材面から支える
石川聡彦が経営するアイデミーは、企業や個人に対して、オンライン上でディープラーニング(深層学習)や自然言語処理などのAI技術を学ぶことができるサービス「Aidemy」を提供している。キャッチコピーは、「10秒で始める人工知能プログラミング学習サービス」。同社がクラウド上に用意したシステム環境を利用するため、ユーザー側では特殊な環境が不要。テキストから学ぶだけでなく、実践的なトレーニングが可能だ。さらには、AIの技術習得に加え、企業内で活用するためのコンサルティングや技術提供まで手がけている。
「企業にとってAIは手段にすぎません。本来の目的は、テクノロジーを駆使して、売り上げを増やしたり、コストを減らしたりすること。アイデミーは、企業の成長に伴走していく存在でありたいと思っています」と石川は話す。
2017年に「Aidemy」のサービスを開始して以来、IT企業だけでなく、製造業、教育機関など、50社以上の企業と取引を重ねてきた。現在の登録者数は4万5000人以上。提供している学習プログラムの実行回数は300万回を超えている。
市場のニーズをいち早く察知し、今やオンラインのAI学習サービスでは、一定の認知度を獲得したアイデミー。しかし、石川が現在の事業モデルにたどり着くまでには、大きな挫折があった。
試練の連続だった創業からの3年間
石川が起業に興味を持ったのは、東京大学に入学してビジネス系のサークルに入ったことがきっかけだ。同サークルの卒業生には、ユーグレナの出雲充やラクスルの松本恭攝など、多くの成功者がいた。大学3年生のときに、あるビジネスコンテストで優勝すると、石川は自信をつけて自らも2014年に起業。同級生の友人と、学生インターンの数人で事業をスタートさせた。
だが、最初の3年は試練の連続だった。弁当のデリバリーサービス、ポイントカードのアプリなど、思いついた事業を次々と展開しては、失敗を繰り返したのである。
「当時の僕は、学生起業家として、同級生からちやほやされただけで天狗になっていたんです」と石川は振り返る。「自意識過剰で、先輩起業家や社会人からのアドバイスに少しも耳を傾けなかった。そこで、失敗を重ねていくごとに、高くなっていた鼻がポキポキ折れていったわけです」
なんとか持ちこたえていた自尊心も、友人たちの退職によって完全に失われた。インターン生の数は一時は30人規模に増えたこともあるが、会社の限界を感じ始めると、社員はひとり、またひとりと減っていき、ついには共同経営者だった同級生まで離れてしまった。残るは、石川ひとりだけ。自分の頭の中で描いている理想と現実とのギャップの大きさにもどかしさを感じ、惨めな気持ちを味わった。