ビジネス

2019.07.06

アマゾン・ジャパン伝説の社員が始めた「世界唯一の実店舗」

角田太郎氏。アマゾンの起業スピリットを体現する「ドアデスク・アワード」も受賞したレジェンド社員だ。


もう一つ、『waltzでは、他では見ることが出来ない景色が見える』という点も、情報循環効果を生んでいると思います。ラジカセが並んでいる風景とか、廃れたと思っていたカセットテープがアートブックのように並んでいる様子とか、ですよね。

そういうまあ、世界中探しても中々ない景色が、waltzにはあります。『見たことがない』『珍しい』景色を撮影した写真は、共有したくなるんでしょうね。いわゆる『インスタ映え』する風景でもあると思いますが、それがうちの店にはあるのかもしれません」

店を訪れた人が、「誰もやっていないことをやっている」、「質の高いプレゼンテーションを実践している」事例を目撃する。すると、情報拡散をしなければ、という責任感のようなものが生まれる、あるいはその体験を自慢したくなる。waltzにはどうやらそんな「共有したくなるシナリオ」があるようだ。


新作に付されたカードはかつての「WAVE」の手書きキャプションを思わせるが、それよりもはるかに精緻な佇まいで、情報量も多い。「こんなに面倒くさくて緻密なことをやってこそ出来上がる、それがwaltzという作品です」

人生の「ピーク」は後ろにあるほどいい

「一糸乱れぬ」を体現したような店内の風景からは想像できないが、店は常に「未完成」だと角田氏は言う。「入荷して店頭に出せていないものも多いんです。それに、売れるとすぐに補充し、キャプションも替えなければならない」

棚はアーチストのアルファベット順だが、中央の机には「新譜」がキャプションとともに整然と並べられている。売れてしまうと別のものに変えるので、並びは毎日変わる。ここは「静謐の館」のように見えて実は、ソフトウェアの面ではめまぐるしく変わる「変化する美術館」なのだ。

「この店にだって、いつか終わりは来ます。僕が目標とすることがあるとしたら、このビジネスを辞めた時に、waltzが『伝説』になっていることです。それが成功の尺度なんです」

アマゾン・ジャパン時代、DVDの立ち上げ時代を角田氏とともに過ごした常富恵理氏は、「当時、音楽がそんなに好きで、知識量も信じられないほどあるのに、なぜ映像のバイヤーをやっているの? と聞いたときに、『一番好きなことは最後に取っておきたいでしょ』と言われた。これは今でも印象に残っています」という。

「だって、人生のピークが後ろにあればあるほど、その人生は幸せだと思えるんじゃないでしょうか」と角田氏。

「無駄な経験はない。その時に意味に気がつかなくても、後から意味を持ってチャンスが来ますから。そして、むしろ今すべてを出しきらなくてもいい。まだまだ余力を残して、人生のピークを後ろに持って行けばいいと思うんです。僕も、本を書かないかとよく言っていただきますが、『総括』は今するべきじゃないでしょう。だって、まだまだいろんなことが起きるでしょうから」

waltzという「作品」は、これからも日々変化して行く。どうやら角田氏が「アマゾン同窓会」に顔を出せるのは、まだまだ先のことになりそうだ。

文=石井節子 撮影=帆足宗洋

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