先ごろ発表された報告によれば、薬物の過剰摂取に起因する死亡が115%増となり、原因別では最も大幅に増加していた。急増し始めたのは2013年ごろ。主にオピオイド系鎮痛剤の過剰摂取が関連している。アルコールと自殺に起因する死者数は、同じ期間中にそれぞれ37%、28%増えていた。
ヘルスケア関連の研究などを支援する米国の財団、ザ・コモンウェルス・ファンドが作成した報告書「2019 Scorecard on State Health System Performance」によると、これら3つの原因による死者の数は、全て増加を続けている。ただ、その状況は州によってかなり異なるという。
薬物の過剰摂取による死者数の増加が最も顕著だったのは、ウエストバージニアとオハイオ、ペンシルベニアの3州だ。中でもウエストバージニア州は、増加率が全米平均の3倍近くに上った。ほか2州の増加率も、平均の2倍を超えている。
薬物の過剰摂取に起因する死者数は2005年以降、26州で107~450%増加した。22州ではアルコール関連の原因による死者数が51~96%増加。自殺による死者は、6州で52~87%増えていた。
薬物の過剰摂取による死者の増加は、北東部と中西部、南東部の各州に目立った。また、アルコール関連の原因による死者数の増加は、中西部と西部の州に集中していた。自殺は全米で増加しているが、西部の州とアラスカ州で最も大幅に増えていた。
米国の「もう一つの危機」
米国の経済学者アン・ケースとアンガス・ディートンは2015年に発表した論文で、これら3つの死因を「絶望死」と名付けた。また、両教授は2017年、米国とその他の国における絶望死についても研究結果を発表している。
残念ながら、米国ではこの問題に関する今後の見通しは明るくない。自らコントロールすることが可能なこれらの問題によって命を失う人は、毎年増加している。教授らによれば、これは米国の平均寿命が短くなっていることにも関連している。
行政によるメンタルヘルス関連のサービスが利用しづらくなっている州もある。経済的な理由で治療を受けない人も多く、これらの問題に起因する死者を増やしている可能性があると指摘されている。米国の非営利団体メンタル・ヘルス・アメリカ(MHA)によると、精神的健康に問題を抱えながら治療を受けていない米国人は、2400万人を超えている。
ザ・コモンウェルス・ファンドの報告書をまとめた著者らによれば、自殺、飲酒、薬物の過剰摂取による死者の増加は、「国家的な危機」だ。これは、ますます議論の余地のない事実になっていると言えるだろう。この危機に今どのように対応するかが、米国のこれから数十年を左右することになる。