──スタートアップもされていたんですね。
ITを用いた交通計画をやれと言われた時に、「何をすれば良いですか?」と所長に聞いたら、「自由にやれ」と言われたので、本当に自由にやりました。とは言っても、僕のバックグラウンドは建築家なので、交通の世界でなにがやられていて、なにが分かっていないのかなど、そういう基本的なことすら全く知りませんでした。
だから最初の数ヶ月は徹底的にリサーチに費やすことにしました。そこでいろいろと調べてみたら、当時は人や車が都市の中でどの様に動いているのか、何処から来て何処へ行くのかなど、ミクロなスケールではあまり把握できていないということが分かってきました。2005年くらいの話です。
その時に考え付いたのが、携帯電話に付いているBluetoothの信号をキャッチできるセンサーを作れば、人や車の動きがトラッキングできるんじゃないかと思い、その時に作ったのが現在でも我々が使っているBluetoothセンサーやWi-Fiセンサーと呼ばれているものの原型になりました。
「グラシア地区歩行者空間計画」(自動車道路を歩行者道路に転換する都市計画)実施前のバルセロナ
「グラシア地区歩行者空間計画」実施後の街並み
その当時、Bluetoothセンサーを用いて人流をトラッキングするなんてことはあまり一般的ではありませんでしたし、実際にやっている人は世界的に見ても殆どいませんでした。新規性なんかも相まって、このシステムは大成功したのですが、これはもう本当にビギナーズラックだったと思います。
またちょうどその頃、欧州プロジェクト(FP6, FP7)などを通してブリュッセルに本部がある欧州委員会と一緒に仕事をしていて、このトラッキングシステムをプレゼンしたら、ものすごいウケがよかったんです。それで、スタートアップにできるんじゃないかっていう話なんかも持ち上がり、様々な人達の助けを借りながらも準備を進め、仲間と共にスタートアップを立ち上げました。
──バルセロナで建築家としてまちづくりや歩行者空間計画などをされていて、そこからコンピューターサイエンスのPh.D(博士課程)を取得されています。とても大きなジャンプに思えるのですが、そのあたりを聞かせていただけますか?
バルセロナって本当に面白い街で、僕がバルセロナ都市生態学庁に入った2005年の時点で、すでにビッグデータをやっていたんです。もちろん当時はビッグデータなんて言葉は一般的ではありませんでしたし、そんなことをしていた都市もありませんでした。しかし、都市に関するあらゆるデータを集めて分析し、それを都市計画やアーバンデザインに活かそうということを何十年も前からやっていたんですね。
いまでも僕の心に深く残っている出来事があります。バルセロナ都市生態学庁に勤め始めて初めてのミーティングでのことです。
都市計画やまちづくりのミーティングって建築家やアーバンデザイナーがいるのが普通なんですけど、バルセロナのミーティングでは数学者や物理学者、生物学者がいたんです。それだけでも驚きなのですが、それ以上に彼らが言っていること、議論していることが斜め上を行き過ぎていて、正直、話の半分も理解出来ませんでした。