「あんな白い壁、もったいないよね」が仮囲いを美術館にした
(写真=ヘラルボニー)
今、渋谷では街中で工事が進んでいる。耐震性の問題など、街は常に建物を中心に機能更新していかないといけない。それがまだ渋谷では10年以上続く可能性があるのだ。
「工事があるということは、仮囲いがある。あんな白い壁、もったいないよね」と話す澤田は、クリエイティブ業界出身ということを思い起こさせる。
「まちづくりの観点からいうと、白い壁は落書きをされてしまう。渋谷区は残念ながら落書きの街でもあります。我々は様々なNPOの方々と協力しながら落書き消しをやっているのですが、またすぐ書かれてしまいます。世界的に認められている防止策として、アートを書くことで、落書きをされにくくしています」
「その上で、シティプロモーションの一貫にできないかなという思いから始まっています。せっかくだったら気づきやメッセージを送れる仕組みを作れないかなと思い、SNSで話題になった宮下公園のアートや障がい者によるアートの展示をしています」
愛犬を探すストーリーの仮囲いは、特定非営利活動法人「365ブンノイチ」が企画したものだった。たくさんの美大生を含む総勢200人で完成させている。作品の登場人物は50人以上、障がい者やLGBTの人などまさに渋谷が推し進めて来た「ダイバーシティ」を表現している。
また、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」は、渋谷で暮らし働く障がいのある人たちのアート作品を使用して「全日本仮囲いアートプロジェクト」を始動した。仮囲いを使って障がいのあるアーティストの作品を展示している。
「障がいのある方が作ったアートが街の人に新たな潤いを与えているのです。違いを認め合うことは、渋谷区基本構想のコンセプトでもあります」と、澤田は話す。パブリックセクターだけでは実現できなかった仮囲い展示も、今は様々な団体と協力することで渋谷に新たな顔をもたらしている。
副区長からみる、理想の渋谷とは?
長谷部とともに様々な変革を渋谷にもたらしてきた澤田。彼の頭の中には、どんな「理想の渋谷」があるのだろうか。
「理想の街のような決まったイメージはないですよ。渋谷は地域ブランディング発想で型にはめることはしてはいけないのです。できるだけ混在化させることで生まれる未知の化学反応を楽しめる街でないといけません。つまり、計算できない街です」
「旧ブランディングの発想は、統一感を持たせるために、メッセージやデザインを管理することが中心にありました。しかし、渋谷のイメージは人によって全然違っている。強いていうなら、それが理想です」
取材にいく途中に、様々な工事現場の仮囲いを目の当たりにした。どれも統一感はない。しかし、今までは「仮囲い」だけだった存在に「命」を吹きかけ、変化する街自体を楽しませようとする姿勢は、常に刺激溢れる場所を提供し続けてきた「渋谷」っぽいなと筆者は感じた。
仮囲いの統一感はない。それでも、渋谷はこれからも変化を続けていく。区長の右腕として、エネルギッシュに行動する澤田のビジョンが見えた。