「No pain, no gain」、苦労なくして得られるものはない──。
韓国人に、この言葉を疑う者はいないだろう。自分たちの両親や祖父母たちが苦労に耐え抜き、その結果として多くの成果を得たことを、歴史を通して学んでいるからだ。もし異議を唱える韓国人がいても、「お前には将来がない」と言われるだけだろう。
では、「誘惑になびかず、ひたすらがまんしていれば、ほしいものは手に入りますか」の答えは?
50%はイエス、50%はノーだ。
なぜなら確かに、誘惑になびかなければほしいものは手に入るだろうが、誘惑になびかない方法は、実は「がまん」ではないからだ。
自己規制能力があれば、「意志の力」をそもそも使う必要がない
「自己規制能力」は人生を成功に導くカギだ。これが強い人はより幸福で、長生きもすることを、複数の研究が結論してもいる。自己規制力の持ち主は勉強も仕事もでき、組織では重要な責任を担っている。彼らは、ワーカホリックではない。他人と親しく過ごし、ものごとの矛盾や葛藤とも向き合い、対処できる。
そして、彼らこそが「よいリーダー」である。いわゆるカリスマ的なリーダーより、自己規制能力が高いリーダーの方が、実はリーダーシップを発揮している。
そして、「自己規制能力」には一般的に、3つの誤解がある。
1つ目は、意志力の過大評価における誤解だ。あなただけが誘惑に弱いのではない。今まで一度でもダイエットを試みた人はわかるだろう。意志力を発揮するのが、どれだけ疲労を伴うことか。「炭焼カルビ」の代わりにサラダを選ぶ時。「濃いめのコーヒーとケーキ」の甘美な組み合わせから目をそむけて水を一杯だけ飲む時。どれだけもどかしいことか。
われわれの体には、脂っぽくて甘い、高カロリーな食物を好む遺伝的なプログラムが内蔵されている。バーベルを持ち上げてカロリーを消費することよりも、寝転がってただエネルギーを蓄えることを好ませるプログラムである。それこそが、食料が十分でなかった数百万年前にはヒトの寿命を伸ばすための人間本能だったのだ。
2つ目は、自己規制能力は訓練により改善できるという考え方だ。「自己規制能力も筋肉。使えば使うほど、強くなる」と主張する学者たちもいるが、逆の結果を報告する学者も多い。
心理学者のヴァネッサ・アーロン研究チームが19個の論文を対象にした分析によると、「がまんする方法」を教えることは、短期的な効果以外の利益をもたらさないことがわかった。また、同じく心理学者のマルト・フリーズの研究チームが自己規制能力の訓練の効果についての33個の研究を分析した結果、いずれにも見るべき効果はなかった。