ビジネス

2019.03.17 10:00

世界で戦う僕のスタートアップストーリーは、新しい章に突入した

加藤 崇(写真=小田駿一)

2019年2月25日、午後1時、僕は太陽が思いのほかギラギラと照りつけるイギリスのロンドン・ヒースロー空港に降り立った。ロンドンで開催される水道産業のイノベーションに関する展示会に参加するため、人生で初めてのイギリスにやってきたのだ。

前日の夜、サンフランシスコ国際空港で会社のメンバーであるヒロ、マイクと待ち合わせた。これまでアメリカの国内出張で(毎回遅延するために)散々痛い目に遭ってきたユナイテッド航空ではなく、ヴァージン・アトランティック航空の目新しい飛行機に乗り込むと、10時間超のフライトを終えて、無事イギリスに到着した。


(左よりヒロ、著者、マイク)

毎日曇ったり雨が降ったりするから、あの夏目漱石が気を病んで日本に帰るほどだったと聞いていたイギリスの気候は、思っていたものとは全く異なるものだった。季節はまだ冬のはずなのに、気温は15度前後で暖かく、僕のイギリスのイメージは完全に壊されてしまった(タクシーで会場近くのホテルに向かう道々、運転手さんに聞いたところによると、異常気象の影響だか何だかで通常より10℃近く気温が高く、ここ数日にわたって快晴が続いているという)。

飛行機の中も、空港も、タクシーも、なんだかイギリス人は良い人たちだなと思った。人の話をきちんと聞いている。人々の心の中に、サービスという概念がある。当たり前に聞こえるかも知れないが、僕が4年近くにわたって戦い続けているアメリカという国では、こうした姿は容易に見られない。

飛行機の中では一睡もせずに、イギリスの水道会社向けに行うプレゼンテーション資料を準備したり、機内に持ち込んだ本を読んだりして過ごした。徹夜明けの状態で到着したのだから、身体は多少重たいのだが、何より初めて訪れたイギリスという国の印象が想像以上に良かったから、僕の気持ちはとても上向いていた。

何を見ても、ことごとく楽しい。ロンドンの街並みに惚れ惚れしながら、やがて中心地にあるホテルに到着すると、ヒロとマイクを連れて、会場の下見に行き、その後、現地のパブに入って「フィッシュ・アンド・チップス」(白身魚のフライと、フライドポテトを盛り合わせた食事)とビールを飲み、その日は泥のように眠った。

僕たちがイギリスに来た目的は、単にこの展示会に参加するためではなかった。イギリスの水道会社複数社とアポイントを取り、イギリス市場進出に向けたソフトウェアの実証実験に関する話し合いを行うためだ。


World Water Tech Innovation Summitの様子

さて、Forbes JAPAN WEB読者の方々に、このあたりで、きちんと自己紹介をしておいたほうが良いだろう。

僕は、アメリカはカリフォルニア州のサンフランシスコ・ベイエリアで、「フラクタ」という人工知能ソフトウェアの会社を創業し、CEOとして経営している。

このフラクタ、僕にとっては2度目の起業になる。思い起こせば、1度目はヒト型ロボットベンチャーだった。もうずいぶん昔の話になるが、これは2013年にアメリカのグーグル本社に会社を売却する形で幕を閉じた。

2度目が、このフラクタだ。紆余曲折があって、最初はまたロボットベンチャーをやろうと思っていたものが、最終的に人工知能ベンチャーになったのだが、この経緯については、2019年1月まで、3年近く日経ビジネス電子版にコラムを連載していたものが書籍『クレイジーで行こう!』(日経BP社刊))として世に出ているので、ぜひ本屋さんかアマゾンで買って読んでもらいたい(約1000日の冒険を、たった3~4時間で読めてしまうのだから、これ以上の自己紹介はないと思っている)。

アメリカを拠点に仕事をするようになってから、もう4年近くになる(会社の設立は2015年6月だ)。今回、縁あって、Forbes JAPAN WEBの「オフィシャル・コラムニスト」に選んでいただき、僕がアメリカや、その他の国で展開するビジネスに関して、コラムを執筆する機会をもらった。

毎日シリコンバレーで会社を経営していると、実際に多くの学びがある。この4年近く、たくさんの失敗を経験したが、その一方で、僕は腐ることなく前を向いて、会社を成長させてきた。

日本で会社を経営していたら、もっとずっと楽な人生になっただろうと思うことはたくさんあったが、その苦しさと結果としての成長を、僕は自らの人生に求めた。その過程を毎月コラムとして書き記すことで、これからスタートアップ(ベンチャー企業)を志す人や、現在スタートアップの戦場で戦っている人、より広くビジネスの世界で戦っている人、はたまた、それが経済の世界でなくとも、何かに猛烈にチャレンジする人たちの参考になれば嬉しい。

文=加藤崇

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