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2019.02.13

I need to KonMari! 動詞になったこんまりに聞く、世界を驚かせた「片付けの精神」

Photo by Scott Kowalchyk/CBS via Getty Images


日本で「片付けコーナー」が当たり前になるまで

海外で高く評価される、近藤の「片付けの精神性」とは何だろうか。簡単に言ってしまえば、それはただモノを整理するだけでなく、片付けを通して自分の暮らしや生き方そのものを前向きにすることだ。

しかし、このように説明されても、日本人にとってはそこまで物珍しい精神性だと思えかもしれない。日本には昔から仏教などで掃除と精神性を結びつける考え方が存在するし、近藤も言うように少し大きな書店の「片付けコーナー」には、この精神性を解説する本も少なくない。日本人からすれば、ある意味「当たり前」の考え方だからだ。

近藤はそれを「ときめく」というシンプルな言葉に集約させたことで、日本の文化に馴染みがない人にも直感的に理解させることに成功した。


Kostikova Natalia / shutterstock

実は、日本でも「片付け」と「精神性」がいまのような形で結びついたのは、比較的最近のことだ。この変遷はすでに研究もされており、牧野智和『日常に侵入する自己啓発』では手帳術や片付け術といった「生活術」の中に、生き方のノウハウ(自己啓発)が侵入していく経緯が示されている。

日本では「掃除」は昔から、禅宗の教えなどで掃除によって「ケガレ」を取り払う「浄化」や、仏教での「悟り」に結びつく行為だといわれてきた。しかし、それが直接いまの実践的な片付け術と結びついたわけではないという。

本書ではそのルーツの一人として意外な人物が示されている。イエローハット(当時ローヤル)創業者の鍵山秀三郎だ。1990年代、イエローハットの企業経営成功の要因として早朝の掃除が注目されるようになった。

単に掃除をするだけでなく、面倒なことに率先して取り組むめば「こころを磨く」ことができる──そうした信念がいくつかの経営誌にとりあげられたことをきっかけに、『プレジデント』などのビジネス誌に自己啓発の一環として掃除が取り上げられるようになったという。

その後も、インテリアに風水を取り入れた小林祥晃(Dr.コパ)によって片付けで「ケガレ」を取り除く思想が、90年代中盤以降に翻訳が相次いだエレイン・ジェイムズが提唱した「シンプルライフ」などによって、片付けを通して「自分の本当にやりたい事」に向き合う考え方が導入されていった。

こうした積み重ねで、日本人にとってはおなじみの──しかし世界では異例の──書店の「片付けコーナー」はつくられていった。近藤の著作が全ての書籍から影響を受けたわけではもちろんないが、こうした積み重ねが当たり前のように存在した日本だからこそ、「こんまりメソッド」が生まれたということはできるはずだ。

そんな近藤がいま、全世界でブレイクしている。その要因は、必ずしも日本古来の「浄化」に対する憧れだけではないだろう。古くからの風習や海外から輸入された「シンプルライフ」、そしてたくさんの片付け本の積み重ねが結果なのではないだろうか。

文=野口直希

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