現在の米中貿易には、1980年代初めの日米貿易との類似点がある。いずれも米国に対して多額の貿易黒字を計上。米企業に十分な市場アクセスを認めず、知的財産権の保護に関する問題も抱えている。
米国は強硬な態度で対日交渉に臨み、日本製品に対する関税引き上げなどを実施。貿易紛争に勝利した。中国に対する現在の米政府のアプローチは、当時の日本に対するものと同じであるようにみえる。
外国為替証拠金取引(FX)情報サイト、デイリーFXのシニア為替ストラテジストは、「日米貿易摩擦への対応において米国が取った行動が、対中貿易戦争に“勝利”するための方法として好意的に取り上げられている」として、次のように述べている。
「中国への米政府の対応は、ロバート・ライトハイザー通商代表の意向に強く影響を受けているようだ。同代表は、レーガン政権時代に対日交渉に深く関与していたベテランだ」
中国には通用しない?
ただし、現在の対中交渉にかつての対日交渉と同じ態度で臨むことは、いくつかの理由で適切ではないと考えられる。
まず、現在の中国は当時の日本のような先進国ではなく、新興国だ。つまり、中国経済がその成長のけん引役として内需より輸出に頼るのは、普通のことだ。さらに、中国はすでに、輸出依存度を低減させるための複数のプログラムを実施している。
前出の為替ストラテジストは、「日中に幾つかの類似点はあるものの、それほど大きなものではない」と指摘する。
「1985年のプラザ合意前の日本と比べ、今の中国は金融市場、特に通貨を相当に厳しくコントロールしている。政策の影響力が、当時の日本よりかなり強いということだ。中国が近年、輸出依存型の成長からの脱却を慎重に進めてきたことも、政策の強さを増すことにつながっている」
そのほか、米国との競争を巡る状況にも違いがある。当時の日本にはすでに、自動車や消費者家電、工作機械など多数の技術集約型の産業があり、それらは技術力で米企業に対抗していた。
だが、中国は現在、そうした状況にはない。米国企業に大きな課題を突き付けるような技術集約型の産業は現れていない。
もう一つの違いは、貿易紛争を取り巻く状況だ。関税と貿易に関する一般協定(GATT)の成立に伴い、高い関税を設定していた日本をはじめ、各国は関税の引き下げに合意。1980年代には、貿易紛争はGATTの下で処理されていた。
現在では、GATTに代わる世界貿易機関(WTO)が紛争の解決にあたる。WTOの発足以降、中国を含めた加盟国間においては、大半の製品の関税が引き下げられている。
危険を招く日中の違い
日中の「違い」として最後に挙げられるのは、両国の歴史だ。中国は日本と異なり、明らかに勝ち目がない場合でも、他国からの圧力に屈したことがない。これは、世界の金融システムにとっての脅威となる可能性がある点だ。
そのため米国は、中国には“一息つく余裕”を与える必要がある。貿易戦争に負ける中国が、その面子を維持できるようにしなくてはならない。