貿易戦争の主な原因である米国の貿易赤字と知的財産権(IP)の盗難の問題を解決するには、対立よりも協力が効果的だと考えられる。ただ、「IP」を定義することは難しい。IP盗難は「文化の盗用」になっている場合もあるからだ。
中国で多数の店舗を展開する「メイソウ(MINISO、名創優品)」は、昨年の売上高が約18億ドル(約2030億円)に上る日用雑貨チェーンだ。同社はフランチャイズ店として初めて、北朝鮮の首都・平壌にも出店した。
だが、メイソウは日本のカジュアル衣料専門店ユニクロが建てたような店舗で、日本の無印良品が作ったような商品を売り、それによってビジネスを成功させている。ブランドロゴも、ユニクロとよく似ている。
製品は著作権法による保護の対象だ。一方、店舗の外観や雰囲気、文化的な要素といったものは、著作権法ではなく「トレードドレス」によって保護される。トレードドレスは著作権法と同様にIPを保護するためのものだが、それが目的とするのは、消費者に誤解を与えないよう、全体的なイメージの違いを明確にさせることだ。つまり、消費者はコピーとオリジナルの違いを認識することができなくてはならない。
問題は、中国ではトレードドレスが適切に保護されていないことにある。近隣諸国は当然ながら、これに憤慨している。
例えば、韓国は文化的な影響力を強めることに対し、多大な投資を行っている。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)は「韓流」の影響力が世界的にどれだけ拡大したかについて調査し、年次報告書を公表している。
韓流の中でも最大の成功を収めているK-POPの普及は、同国政府に負うところが大きい。韓国の文化体育観光部によれば、同部の予算は来年、10.9%増の約52億3000万ドルになるという。
こうした努力が中国の文化的「海賊行為」で損害を被るのは、残念なことだ。それでも、こうした現状を変えるために、韓国のような国にできることはほとんどない。
ただ、希望がないわけではない。中国のIP保護法の専門家は過去に、米国の法律事務所ハリス・ブリッケンが運営するブログ「チャイナ・ロー・ブログ(China Law Blog)」で、米国のゲームソフト会社アクティビジョン・ブリザードのオンラインゲーム「ワールドオブウォークラフト」のインターフェイスやキャラクターの名前とデザイン、アイコン、マップなどが、中国でトレードドレスの保護対象として認められたことに触れている。
中国の「海賊行為」の被害者は、どの国でもトレードドレスの侵害について中国企業を訴えることができる。それを行うのが最も難しいのは中国だ。ただし、トランプが起こした貿易戦争は、この点において役割を果たすことができる。
関税を課して中国を攻撃しても、同国政府が米企業の助けになるような行動に出るインセンティブにはならない。だが、トランプはIP盗難への対策を強化する代わりに関税を引き下げることを提案し、「得意だ」と自負するディール(取引)を行うことができる。貿易戦争は、中国がこの問題に関する交渉に応じる可能性を高めている。