それはなぜか? 「アマゾンほどの大企業でも破産しないわけではない」と言ったベゾスの見方は正しいからだ。同じことはすべての大企業にも言えるが、この点を認めるCEOは少ない。しかし、これを認められるベゾスのような少数派は、自己認識と批判的思考を兼ね備え、会社の存続だけではなく長期的な繁栄を実現できる人物だ。
私は米デトロイトの自動車業界を取材していたとき、自社の倒産の可能性を疑いもしない上級役員たちを直接目にしてきた。ゼネラル・モーターズ(GM)が2009年に倒産する前、同社役員が「この会社ほどの大企業は倒産しない」というたびに25セント硬貨をもらっていたとしたら、今頃少なくとも後継企業の株式を1つくらいは買えただろう。
こうした傲慢(ごうまん)さを持つのは、米自動車業界だけではない。
米保険大手のAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)が破綻するわずか数カ月前の2007年、同社幹部のジョー・カッサーノが投資家向け会議で、同社が抱えるサブプライム住宅ローン関連証券の膨大なリスクを心配する必要はない、と宣言したのは有名な話だ。カッサーノは「真面目な話、当社がこうした取引で1ドルでも失う合理的なシナリオを考えることですら難しい」と話した。
また、2010年に破産した米ビデオレンタル大手ブロックバスターのジム・キーズCEOは2008年、アナリストらに対し「レッドボックスもネットフリックスも、競争の観点からは注目されてすらいない」と述べていた。
このように見通しを誤った大企業幹部の言葉を集めれば、本が1冊出来上がるほどだ。こうした会社は、経営者が破綻は起こり得ないと言っていたがために、破綻を回避する措置を講じられなかった。
過信を防ぐ「死前分析」
認知心理学者による研究の多くでは、リーダーが自信過剰や過去の成功体験により企業戦略や計画、ビジネスにおける決断の重要な欠陥に気づかないことがあると示されている。
認知心理学者らはこうした固定観念や盲点を克服するために幾つかのツールを編み出しており、このうち特に強力なものの一つに、プリモーテム(死前)分析と呼ばれるものがある。
ゲイリー・クライン博士が開発したプリモーテム分析は、計画を立てる人に対し、計画が失敗するシナリオをできる限り詳細に考えさせ、失敗を導く特定のステップを分析させる手法だ。こうすることで、一連の行動に関連したリスクをより正確に評価するだけでなく、失敗の可能性を下げるために計画を調整することができる。
これは強力なツールだが、まずは失敗の可能性があることを認めないことには始まらない。これこそがまさに、ジェフ・ベゾスが今回やってのけたことだ。ベゾスはアマゾン倒産の可能性を認めることで、これまで一流企業の多くを破綻へと追い込んだ傲慢さの罠にアマゾンが陥らないようにしたのだ。