編集長を乗せたタクシーが、正午すぎに空港の駐機場西側にあるビジネスジェット専用ターミナルに到着した。このターミナルは2014年、ビジネスジェット利用者、関係者のためだけに建てられたものだ。
受付を済ませ、一人がけのソファが広々と配置されたラウンジを通り抜けるとその先はすぐに滑走路だ。定期便ターミナルのように、混雑した荷物検査を通ることもなく、ラウンジと滑走路が一本線でつながっているのである。
編集長はホンダエアクラフトカンパニー藤野道格社長と機体へと乗り込んだ。その日は朝から雨が降り続いていたが、一瞬の晴れ間に、HondaJet Eliteが滑走路から飛んだ。
安定飛行に入る前に、藤野社長が「乗り心地はどうですか」と編集長に聞いた。「こんなに揺れずにビジネスジェットで離陸したのは初めて。しかも静か。内装も美しい。全員が足を伸ばすことのできる機内の設計も画期的ですね」
編集長が嬉しそうに答えた。高度が安定してシートベルトサインが消えると、機内をぐるりと見回し、今度は乗客スペースの後方にトイレがあることに気付いた編集長がこう言った。
「足元まで隠れるドアのあるビジネスジェットには初めて乗りました。中も明るいし、ここに乗客をもう一人増やせるくらいに広い。特に女性は喜ぶでしょう」
平均飛行時間が6時間以内のビジネスジェットのトイレは、乗客の気分が悪くなった時に備えた緊急用のもの。照明は暗く、ドアではなくカーテンで仕切るモデルがほとんどだ。
エンジンを搭載する位置によっては、機体の前方にトイレを設計することもあるという。機体の前方にあれば、悪臭が後方にいる乗客のいるスペースにまで流れることもある。
他社がスピードや飛行距離、燃費の良さなど数字で一目にわかるハード面の開発に一番注力する一方、ホンダエアクラフトカンパニーは乗る人の気持ちや感性に訴えかけることを最優先に考えてビジネスジェットを作ったという。今度は編集長から質問が飛び出した。
「通常、飛行機は3万フィートくらいの高さを飛んでいますよね。HondaJetEliteは約4万フィートまで上昇すると聞いたのですが、それはなぜですか?」
藤野社長が「よくご存知ですね」と言いながら、こう答えた。「それは乗る方が感じる騒音を軽減させるためでもあります。大型旅客機が上昇することができるのはせいぜい3万フィートまで。そこにはまだ気流の流れなどから発生する、音があります。HondaJet Eliteが到達できる空には、小声で会話ができるくらい静かな世界が広がるんです」