ビジネス

2018.10.08 17:00

日本のベンチャーは世界で通用するのか 「世界大会」で見えたもの

ティーケーピー代表取締役社長 河野貴輝


ひとつは、リーマンショック時、1カ月で5億円分のキャンセルが生じた。けれど、河野は自身が先頭に立ちビルオーナーへ家賃を下げてもらえるよう交渉、室料を下げ、客数を増やすという戦略にでた。結果、ショック前に比べ客数を2倍に、売り上げもリーマンショックから半年後1.5倍へとプラスに転じた。また、ピンチに備え、事前に金融機関から資金調達を済ませていたことも奏功した。
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もうひとつは、東日本大震災。5億円近いキャンセルが相次いだ。しかし、日本中がイベント自粛に走る最中、河野は品川にあるホテル宴会場を獲得、宴会場事業に乗り出した。それがティーケピーを筋肉質な企業へと変える追い風になった。

ピンチだからこそチャンスになる。逆張りの発想である。ディーリングの世界にいたときと同様、一瞬の変化も見逃さず、ベットと引き際のタイミングを冷静沈着に見定めるのだ。そもそも、河野のビジネスは不況時に始めている。

すると、海外の人たちは「好景気になったら難しいビジネスモデルだね」と聞くという。しかしそうではない。彼のビジネスは順張りと逆張りのコンビネーションだ。逆張りから入って、順張りになる。そして、また逆張りになったら仕込みのチャンスがやってくる。そう考えたら、環境変化も不況も恐れることはない。
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「モナコに来て、さらに海外進出の気持ちを新たにしたのでは」という問いに対し、河野は泰然としていう。

「現在の世界的な状況を鑑み、今ではないんです。そのチャンスは勿論狙っています。今は茎を上に伸ばすよりも、根っこを張る時期。しかるべきときにむけ、一気に勝負をかける力を溜めるときだと思ってます」。

河野は一見、相場師のように見える。けれど、実際は緻密な計算で、着実に利益を積み上げていく地に足の着いた事業家だ。そんな彼に成功するリーダーの素養を聞くと、「自ら決断すること、変化に対応できること、そして損切りできること」。この答えを聞くに、やっぱり河野には勝負師の血が流れている。

モナコの最終審査会場から出てきた直後の河野の顔は晴れやかだった。

「自分の良さは伝わったと思います」。彼を囲む報道陣にそう語る彼の声はこれまで以上に自信に満ち溢れていた。すでに複数の経営に携わり、企業を上場に導き、日本において空間再生のパイオニアという名もほしいままにした。そんな河野がこのモナコという地から得たものは何なのか。

「各国の起業家に会い、世界には多くの同志がいることに気づいたんです。それはこれ以上ない刺激になりました。その意味において、ここは私にとってのパワースポット。この興奮を日本に持ち帰ります」。世界一の起業家に選ばれなかった。しかし、河野の目は次なる世界の頂きを見つめている。


河野貴輝◎ティーケーピー代表取締役社長。2005年8月創業、11年、「TKPガーデンシティ品川」の運営を開始。海外はニューヨークをはじめとする6カ国7都市にも進出。17年3月には東京証券取引所マザーズ市場へ上場。現在、全国2026室、14万9217席(18年7月末現在)を運営する、貸会議室など空間再生流通ビジネス業界のリーディングカンパニー。

文=Forbes JAPAN編集部

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