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(左)イーロン・マスク (右)前澤友作(Photo by Mario Tama / Getty Images)

1775年7月30日、ジェームス・クック船長は、南極海を通って地球を周回する3年間の航海を終えて英ポーツマス港に帰港し、英雄として迎えられた。帆船「レゾリューション号」には若き芸術家ウィリアム・ホッジスも乗船。航海の間、ホッジスは絵筆を取り、タヒチやイースター島、そしてポリネシアの先住民や動植物の姿を描いた。

1830年、米国人画家ジョージ・カトリンは、軍人ウィリアム・クラークと共にミズーリ川をさかのぼる外交遠征に同行し、先住民のマンダン族、シャイアン族、クロウ族を訪れた。カトリンが描いた先住民の精緻で繊細な描写は大きな衝撃をもたらした。カトリンの絵は特に欧州で人気となり、それまで先住民を「野蛮人」とみなしていた人々の認識を変えた。

携帯カメラが登場する前の時代は、科学の発展や、母国の人々と体験を共有するため、大規模な探検にアーティストを連れていくことは必須だった。現代では、デジタル一眼レフやスマートフォンのカメラ、ドローンなどがあるため、探検家は全てを自力で記録できる。調査チームにアーティストを同行させるのは、もはや古臭く時代遅れにも思われる。

スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は先月17日の記者会見で、同社の新型ロケットBFRによる月への往復旅行に参加する初の乗客として、日本の富豪で起業家の前澤友作が選ばれたと発表した。だが、会見での最大のサプライズは、出発予定日の5年以上も前に発表を行ったマスクの大胆不敵さではない。

それは、会見開始の約20分後、前澤が月旅行の全座席を買い占めた上、アーティストたちを同乗させると表明したことだった。

前澤は「2023年、私はホストとして、この月へのミッションに同行するアーティストを世界中から6~8人招待したい」と表明。「アーティストには、地球帰還後、何か制作してもらうことになる。創られた傑作の数々は、私たち皆が持つ夢見る心を刺激するだろう」と語った。

これは単なるパフォーマンスなのだろうか?

スペースXが、競合他社のどこよりも低コストで衛星を効率的に軌道に乗せることに成功し、ロケット業界を革新できることを証明したのは間違いない。しかし同社は同時に、これまで凝り固まったロケット科学者とパイロットのまじめな印象を築いてきた業界に、奇抜さを導入しようとしている。

編集=遠藤宗生

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