カナダの移民・難民・市民権省(IRCC)は最近、急増する移民申請書類の処理を効率化するため人工知能システムの導入を検討しているという。すでに今年初めから、中国人とインド人を対象にすでにテストを開始しているとの話もある。
そのような移民審査の自動化が進む状況について、今回、トロント大学の研究チームが調査報告書を発表。不当な差別やプライベート侵害事案など深刻な問題が発生する可能性があるとの問題提起を行った。
報告書の分析によれば、開発中の人工知能システムは「申請者の危険因子」「不正申請の可能性」「結婚の真偽」「生物学的に親子関係の真偽」などを見抜けるように設計されているという。研究チームは、人工知能システムには間違いを起こすリスクがあるとし、アルゴリズムは決して“中立的”ではなく、そこから生まれる決定が偏向する可能性が否定できないと指摘。
書類審査は移民たちの「生死を分ける重大な問題」であるため、適切な基準や監督機関が設置されるまで、すべてのシステムは凍結されるべきだと主張している。
一方、IRCCのAhmed Hussen長官は、人工知能はあくまで「急増するビザ申請書類を分類する用途にのみ使っている(中略)職員の業務効率性を高めるためであって(審査を)代替するものではない」と反論。そして、「テストを通じて長短点を把握中だ」と付け加えている。
1年で31万人の新規永住者
両者の主張からは、移民審査業務に人工知能を導入する際のメリット・デメリットが浮き彫りになる。前提として、カナダでは2017年に5万人以上の難民申請を処理しており、2018年には31万人の新規永住者が受け入れられると予測されている。人工知能が正確性や客観性を担保できるのであれば、それら膨大な業務コストや時間を削減することに寄与し、職員たちや国家財政にとっても心強い味方となるだろう。
反面、アルゴリズムに偏向があれば、難民など経済的・政治的に危機に瀕している人々の命を奪ってしまう間違った判断が生まれかねない。そう考えると、当面は、人間と職員と人工知能の協業体制を上手く築いていくことが、効率化とリスク回避の双方を達成するための課題となっていきそうだ。
ところで、移民にはネガティブとされてきた日本の現政府も、今後、徐々に受け入れ数を増やしていくだろうと予想されている。今年6月に閣議決定された「骨太の方針2018」では、外国人に対して新たな在留資格を設ける内容など盛り込まれている。外国人の単純労働に門戸を開放し、2025年までに50万人超の就業を目指す方針である。
日本でも、移民の書類審査などに人工知能が使われるようになるのか、とても気になるところだ。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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