ビジネス

2018.09.01 12:30

中国のイケアが日本よりも賑わっている理由


外資系なのに高くない

こうしたさまざまな問題を乗り越え、自分の理想とする生活空間を具現化しようとする彼女たちが、アプリ情報以外に頼りにしているのが、イケアのモデルルームだという。張さんも、自宅の内装に取りかかる前に、何度も足を運んで参考にしたそうだ。

そこに今日の中国の内装市場の実相があるというので、ある週末の午後、上海市内に3つあるイケアのうちのひとつ、徐匯商場を訪ねてみた。



巨大な館内は、想像どおり、客であふれていた。若いカップルだけでなく、中高年の女性やベビーカーを押す子供連れのファミリー客も多かった。中国ではあらゆる世代が内装のニーズを抱えているのだ。

客間からキッチン、水回り、子供部屋、収納器具などに分かれたモデルルームには、カメラを片手に熱心に商品を見比べる中国の人たちの真剣なまなざしが見られた。


(左)品物を写真を撮る女性客、(左)熱心に商品を見比べる客たち

とにかく、彼らは自分で内装のすべてをやろうとする人たちだ。職人選びから商品の購入まですべてをやるのも、コストを他人に任せず、自分でコントロールしたいからだ。しかも、続々と進出してくるグローバル企業のショールームのおかげで、彼らは多くの海外ブランドをじかに見ることができる環境にある。

だが、誰もがそんな高額のブランド商品を手に入れられるわけではない。なるべくコストをかけずにいいものを買い揃えたい。品質に疑いがある一方、国産品も日々高品質化しているのも確かで、結局見比べて、イケアで見つけた商品のイメージに近い国産品を安く購入するというケースも多そうだ。それでも、いちばんの理由は「外資系なのに、決して高くないから」イケアに行くのだ。

日本のIKEAはいかにも日本らしい

帰国して南船橋のイケアに足を運んでみると、日中の違いが感じられた。まず気がつくのは、日本の細かいマーケティング商法である。たとえば、「ねこと暮らすリビング」「頭がよくなるLDK」「夜景を楽しむリビング」などと、世代や家族別に個別にストーリー化されたモデルルームを並べるやり方がいかにも日本らしい。

旅行好きなカップル向きの、海外滞在中はエアビーアンドビーで外国人に自宅を貸すことを前提にした「旅する二人のための部屋」というモデルルームもあった。面白いには面白いが、あくまでも自分たちの手で内装工事までする中国の消費者には、こうした手の込んだ提案型のマーケティング商法は必要ないのだろうと思った。

なぜなら、自宅の事情はいちばん自分がよく知っているからで、他人がこしらえた型にはめられても、それを丸ごと受けとめる気にはなりにくいのだろう。それだけ彼らは真剣に内装に向き合っているといえるし、日本では考えられない、さまざまな障害や落とし穴もあるゆえに、そうせざるを得ないのだ。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文・写真=中村正人

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