前回紹介した「好好住」のようなアプリで情報発信している中国版インフルエンサーKOL(Key Opinion Leader)たちの声は、特に影響力がある。北京在住でIT企業に勤める張草苺さん(ハンドルネーム)も、いわば中国の“カリスマ内装家”のひとり。彼女は自宅の内装を写真と解説付きで「好好住」で公開している。
彼女のページに付けられたタイトルは以下のようなものだ。
「吹过一阵北欧风,小户也有春天(北欧の風が吹くと、小さなお家にも春がある)」
北欧志向がうかがえるこのタイトルもそうだが、彼女のページからは、中国の若い世代の内装に関する考え方や、日常生活においてどんな観点を重視しているかが見えてくる。
壁を壊してオープンキッチンに
彼女の自宅の写真をアプリで見せてもらいながら、WeChatで話を聞いた。まずリビング兼客間、壁の基調色は白だが、テレビなど一部のインテリアは黒で、基本モノトーンに徹している。まさにシンプルモダンを地でいく感覚である。この選択については「外からの光を取り込むことで、客間を小さなバルコニーのようにしたかった」と彼女は話す。
もっとも力を入れたのは、キッチンと客間をオープンにすることだったという。夫と共稼ぎで子供のいないDINKSの張さんにとって、油を多用する中国料理には適さないなど難点はあっても、オープンキッチンが演出するライフスタイルは最も重要なものだった。
彼女はオープンキッチンにするために、キッチンとリビングの間の壁を取り壊した。以下の間取りの「ビフォー&アフター」を見れば、一目瞭然だ。
(左)張草苺さんのページで公開されている客間兼リビング (右)間取り図のビフォアー/アフター
「大変だったのは、リビングとキッチンの間にあったガス管の問題を解決することでした。そして、黒板を使ってカウンターを囲み、美しさと実用性を両立させた」
こうした大がかりな内装工事は中国ではよくあることだ。「壁を壊して半開放式のキッチンにしたのは、調理をする人と家族との関係を近づけたかったから。同時に客間の空間を広げることも目的でした」と彼女は説明する。
レンジの前に黒板を置いたのは、油の飛沫をできる限り抑えようとした工夫なのかもしれない。中国の人たちの食生活と北欧風のライフスタイルを共存させようとしたところに、彼女のオリジナリティがありそうだ。
とはいえ、自分たちでやる内装工事もすべてうまくいくとは限らない。屋外のベランダにある衣類干しの自動昇降機の電源が付けられなかったことだ。張さんが語る。
「こうなったのには理由があります。中国では南北で住宅の構造に違いがあり、南方では開放式のベランダが一般的ですが、私たちの住む北京ではベランダがないので、工事ができなかったのです」
北方の住宅にベランダかないのは、黄砂の影響で、屋外に衣類を干すことは一般的ではないからだろう。
「南方ではベランダに洗濯機を置くので排水溝を付けられますが、北京では排水溝はたいていキッチンかトイレにしかない。このように、間取りの変更と水回りの改善、それを実現するための電気配線工事をどうするかという3点は、内装をする人にとって共通の課題なのです」