だが、トランプは8月10日、トルコ産の鉄鋼・アルミニウムに対する関税を2倍に引き上げ、それぞれ20%、50%とする方針を明らかにした。トルコのこれら製品の対米輸出額は昨年、およそ10億ドルに上っている。
実際にこの戦いに関係があるのは、トルコで起きたクーデター未遂事件に関与したとして拘束されている福音派の米国人牧師、アンドリュー・ブランソンの解放を米国が求めていることだ。
トランプはこの戦いで一切譲歩をするつもりはないようだが、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領が助けを求めることがきそうな相手は、ごく限られている。マクロ経済に関する研究と分析を専門とする米ブレトンウッズ・リサーチのリポートによれば、現時点でエルドアンが頼りにできそうなのは、以下の4者だ。
・ロシア
これまで、エルドアンとロシアのウラジミール・プーチン大統領の関係は、行き詰っていた。プーチンは、エルドアンがシリアで活動するイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が盗んだ石油を買い取ることで、同組織の資金調達を支援していると非難。一方のエルドアンは、ロシア軍機を撃墜し、パイロットを銃撃して死亡させた。
だが、ロシアの国営天然ガス大手ガスプロムは、自国とトルコを結ぶ天然ガスパイプライン「ターキッシュ・ストリーム」を建設中だ。注目すべき点はここにある。ロシアにとっての一大ビジネスが危機にさらされているのだ。トルコがこのパイプラインの建設を継続できないような状況に陥ったとみれば、ロシアは進んで手を貸すかもしれない。
・欧州
トルコは数万人に上るシリア難民を受け入れている。トルコはこのことによって、欧州各国に影響を及ぼす力を得ていると考えられる。場合によっては各国に対し、難民受け入れを理由に支援を求めることができるだろう。あるいは、受け入れに費やす時間もエネルギーもこれ以上ないと言うだけでもいいかもしれない。エルドアンはこの問題を利用することができる。
トルコの地理的な位置、欧州に押し寄せる移民の波に対して同国が実質的に果たす防潮堤としての役割から、トランプ政権がトルコに対して講じる措置の影響はほぼ全て、欧州にも及ぶとリポートは指摘する。
また、欧州連合(EU)加盟国の銀行は米国の銀行に比べ、トルコとの関係が深い。そして、生産コストを抑えることができるトルコは、EUの製造業の中心地だ。つまり、トルコはEUの“影のメンバー”のようなものだ。
欧州中央銀行が加盟国ではないトルコを助けることはないだろうが、リラ安に多少の歯止めをかけるため、米当局に通貨供給量の増加を要請する可能性はある。