あまりにも素敵だったので思わずWebサイトをクリックすると、そこには「MUKU」というブランド名が表示されていた。サイトには、傘以外にもネクタイやブックカバー、レザーボールペンなど、色彩豊かで個性的で斬新なデザインのプロダクトが並んでいる。
「MUKU」。なんて格好いいプロダクトを作るブランドなんだろう──。
調べているうちに、これらのプロダクトは「知的障がい」を持つアーティストが描くアートをもとに作られていることを知り、誤解を恐れずにいえば驚いた。「こんなにも繊細で綺麗な表現をする人たちがいるのか」と。
筆者はこれまで、知的障がいのある方との接点がまったくない人生を歩んできた。だからその傘との出会いは、いち「生産者」と「消費者」という関係で、はじめて筆者が知的障がいのある方と社会的につながった瞬間だった。
「知的障がいのある人と社会の“接点”を作りたい」
そう語り、ブランド「MUKU」の事業を行う27歳の双子がいる。2人に、事業にかける思いや今後の展望について取材した。
福祉への興味と、るんびにい美術館との出会い
知的障がいのあるアーティストが描くアート作品をプロダクトに落とし込み、社会に提案するブランド「MUKU」。展開する松田文登(まつだ・ふみと)と崇弥(たかや)は双子の兄弟だ。2人の上にはもうひとり、先天性の自閉症のある兄がいる。
左が弟の崇弥、右が兄の文登。
「兄が自閉症だったこともあり、小学生の頃から福祉業界への興味は強くありました。土日になるたびに、母親と一緒にいろんな福祉関係者が集まるセミナー、合宿に行ったりして。将来は漠然と福祉の世界で生きていくんだと思っていましたね」(崇弥)
福祉業界への思いはありながらも、2人は大学卒業後、それぞれ別の業界へ就職。兄の文登は建築会社の営業として、弟の崇弥は広告代理店のプランナーとして社会人生活をスタートさせた。
転機は社会人2年目の冬に訪れた。崇弥が母親から、岩手県にある「るんびにい美術館」の存在を教えてもらったという。そこは、知的障がいのある人たちが描いたアート作品が展示されている美術館だった。