ビジネス

2018.06.01 13:00

「集団的個人」の時代、クリエイターたちが実践すべき働き方とは

クリエイティブラボ PARTYのCCO 伊藤直樹


──在宅ワーク禁止というのは、なんだか意外です。
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在宅ワークは禁止ですが、副業は積極的に推進しています。それは、クリエイターたちに、ビジネス感覚や経営者感覚を養ってほしいから。

いままで10あった収入が、6や7になることは生活の危機なので、安定しないフリーランスとして働けば、嫌でも「収支を見る」ことが習慣づきます。すると会社で働くときでも、マネタイズの仕組みやマーケティングなど、これまで考えなかったようなことまで考えるようになる。そんな経営者マインドを身につけた個が集まったクリエイター集団は、とても強いですよ。「気づいたら給料が振り込まれている」経験しかない人には、ビジネス感覚は絶対に身につきませんから。

──そんな個が集まる場所が「コレクティブオフィス」なわけですが、そこから得られるメリットとは、具体的になんでしょうか?
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コレクティブオフィスネットワーク「石(イシー)」から、代官山・鎌倉間の移動車であるテスラの予約などができる

「集団創作」をより加速していくことです。僕たちは創作活動をする上で、大切にしているプロセスが4つあります。それは、アイディエーション、デザイン、エンジニアリング、ビジネス。この4つの要素すべてを兼ね備えた個はほんの僅かなので、個ではなく、全体としてレベルを上げていくためには、集団で補完しないながら創作すべきだと考えています。

『Collective Genius』の共著者であるハーバード大学教授リンダ・ヒルさんも「集団天才が組織の創造性を高める」とおっしゃっているように、グーグルやピクサーがイノベーションを起こし続けられるのは、個人ではなく、集団のクリエイティビティを解き放つ仕組みがあるからなんです。

このことを僕が実感したのは、ポートランドにある企業 ワイデン・アンド・ケネディに所属していた時です。もちろんワイデンさんもケネディさんも素晴らしいクリエイターなのですが、現場全てに関わっているわけではありません。

では、どうして、ワイデン・アンド・ケネディがつくるナイキのCMはいつも面白いのか。それは、ワイデン・アンド・ケネディという企業に、世界中の優秀なクリエイターが常に出入りする組織だからです。このコレクティブオフィスは、もちろん、PARTY以外のクリエイターたちも出入りする。会社以外のクリエイターたちとも交流し、高め合っていくコミュニティができればと思っています。

──象徴的な個人のクリエイティビティに依存するのではなく、集団創作をすることでイノベーションを起こし続けられる。

そう。ですが実際は、日本やアメリカに比べて賃金も安いし、言語も不利なので、ピクサーやグーグルのような規模で世界中からクリエイターを日本に集めることは難しい。

では僕たちはどんな方法で集団創作に取り組み、そういった大企業と戦っていくべきなのか。それは、「ある個人の狂気を、集団で盛り上げる」ことです。

──個人の狂気を、集団で盛り上げる、ですか。

例えば企画を決める際、ブレストを行うと、最終的には集団として合意を取らなければいけないので、丸く収まった匿名的な企画になってしまいがち。一方で、うちは「アイディアじゃんけん」を行っています。各々が必死で考え込んで想いを込めた企画を持ち寄り、ひとりずつプレゼンしてもらい、皆で誰の案に乗るかを決める。こうすることで、個の熱狂を集団が盛り上げていくことができる。集団主義でも個人主義でもない、「集団的個人」を活かす方法です。

「自立した個人が同じコミュニティに集まり、一緒に創作をする」ことが、これからのクリエイター組織のあり方だと考えています。つまり、集団創作には一人ひとりの個が自立していることが前提条件です。

そのため、先に申し上げた「経営者感覚を身に付けたクリエイター」を育てるための取り組みを行いつつ、自立した個としてのクリエイターたちを増やそうとしています。

──自立したクリエイターたちがゆるやかに、かつ有機的に繋がり合う組織が理想だと。

はい。PARTYでは、サッカー型組織を志向しています。サッカーの場合はフォワードがヒーローになる日もあれば、ゴールキーパーがヒーローになる日もある。ピッチ上を選手たちが流動的に動き、プレーの瞬間瞬間によって注目される選手が変わる。サッカーはまさに自立した個が集まり、集団としての質を高め、その中で集団的個人が台頭してくるスポーツ。

PARTYも僕や中村(中村洋基 クリエイティブ・ディレクター)にスポットライトが当たることが多いですが、先の「アイディアじゃんけん」では、僕の勝率はこれまで8割くらいだったのが、いまは5割くらいに下がっています。それは他のクリエイターたちが成長し、スポットライトが当たる機会が増えている証なのでとても良いこと。世界の名だたるクリエイティブカンパニーに日本企業が勝つためには、サッカーのような「優れた集団的個人」をいかに育成していけるかにかかっています。

構成=小野瀬わかな 写真=遠藤 分

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