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2018.06.05

その「言い訳」が組織風土をつくる

fizkes / Shutterstock.com

組織の変革を進める際に、よく話題にあがるのが「組織風土」だ。

「うちはすごくかたい風土です。何をするにも前例主義なんです」「新しい行動を奨励する風土はあるのですが、目の前のことに手いっぱいで動き切れていないんです」

こういった発言を人ごとではないと感じる人も多いのではないだろうか。
 
心理学者のエドガー・H・シャインは「組織風土の形成は、同じ行動習慣の蓄積で形成される。一つひとつ蓄積された結果が、思考の習慣を形成し、感情の習慣を形成し、そしてまた同じ行動をもたらす」と述べている。

たとえばある会社の会議で、毎回少し遅れる人が出て定刻には始まらない状態が続くとする。「すみません、お客さんからの電話が長引いて」「どうしても急ぎのメールを送らないといけなかったので」といった言い訳があり、誰もそれに対して異を唱えなかったとしよう。そうすると「業務の急ぎがあれば会議に遅刻してもいい」という認識が皆にすり込まれていく。

こうして「正しい」とされるものがひとつ醸成される。組織が「正しいとする」思考や行動が積み重ねられ、皆がそれを認識するなかで、組織風土は醸成されていくのである。

組織風土は企業成長にプラスにもマイナスにも影響するが、理念・ビジョンに基づく行動が重んじられる風土であれば、他社との差別点となる。プロセスや価値基準の共通認識がつくられると、組織内での相互理解のスピードも高まる。組織風土は組織を下支えする大きな役割を持っているといえよう。



組織風土を表す行動の一つに、社内独自で使われる言葉がある。これを我々の実施しているアカデミーCANTERAでは、「社内方言」と呼んでいる。

たとえば、あるメーカーでは、製品づくりの現場で「手触り感」があることを大事にしていた。それが同社の製品の強みを表しているからである。そしてその「手触り感」は、製造現場以外でもよく用いられる。「その企画書にもうちょっと手触り感がほしい」「そのイベントで手触り感は伝わるか?」など、日常用語のなかに使われている。こうした「社内方言」が浸透していると、意図するものを用語一つで相互共有することができる。

おそらく例に出したメーカーの強みは、「手触り感」をあらゆるところに持つことで強化されていく。そして、日常の問いにその言葉が使われることで、新入社員にも「わが社はそれを重視している」ことが自然と認識されていく。企画をつくる際には「手触り感」をあらかじめ意識するだろう。

こうして「社内方言」を通じて、組織の共通認識が自然と強化されていく。それは一朝一夕で変えることが難しい風土となり、プラスに作用する場合は、他社が模倣困難な強みになりえる。

一方、冒頭にあげた例のように、組織風土が変革の妨げになることも往々にしてある。ビジョンから離れ、内向きの議論ばかりしているうちに、組織内でのみ通用する常識が強化されてしまう場合だ。それではまずい、この状況を変えたい……と思ったとしても、即効薬があるわけではない。組織風土はプラスにもマイナスにも、思考行動を積み重ねることでしか変わりえない。

変えていくために現状を把握したうえで、意図的に施策を入れていく方法もある。しかし、日常の言葉や問い一つ一つが風土を形作っていることを念頭に置いておく必要があるだろう。どのような施策を入れるにせよ、実行は風土に左右される。自社の風土とそれをもたらしている要因をCHRO自身が観察し、把握しておくことが、実行の確実性を後押しするといえよう。

連載 : 人事2.0──HRがつくる会社のデザイン
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文=堀尾司

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