ビジネス

2018.05.21 08:00

理想の企業づくりは「ビジョンの普段使い」から

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企業の成長を支える幹は、「こうありたい姿」あるいは「社会に対して使命を果たす」といった、ビジョン・ミッションからはじまる一貫性である。

ビジョン・ミッションに基づき「何をやるか」を決めるのが戦略であり、「どのようにやるか」を決めるのが戦術となる。企業単位から部門単位、課、チーム単位に分解されていく。その実行に際して、行動指針・バリューを定める会社も多くある。

しかし現実には、個々のチーム成果を積み重ねても「ありたい姿」に届かないことが往々にしてある。そもそも、個々のチームで行っている活動が、ビジョンからずれてしまっていることも珍しくはない。

すると、ビジョンはそんなに重要なのか? あってもなくても、結果は変わらないのではないか、という疑問も生じるだろう。

確かに日常業務が決まっていたら、ビジョンの有無でそれほど行動は変わらないかもしれない。しかし、「ありたい姿」を本気で実現するには、ビジョンが日常行動まで影響力を持っているかどうかが、実は大きく左右してくる。
 
あるスポーツ監督が「世界大会でベスト4に入る」というビジョンを掲げたときに、日頃から「その練習でベスト4にいけるのか」「その食事でベスト4にいけるのか」と問い続けたと聞く。うっとうしく思うメンバーもいたかもしれないが、選手同士でも「その~でベスト4いけるか」が冗談半分、本気半分で日常的に使われたそうである。

すると、何気ない行動をとるときにも、「これでベスト4いけるだろうか」と自問自動するクセがつくようになる。これが「ビジョンの普段づかい」である。

ベスト4にいくことを意識してどれだけ日常から積み重ねていけるか。これは企業でも同じである。ビジョンを浸透させたいので「毎朝の朝礼で唱和する」という企業もあるが、それよりもビジョンを意識した日常行動が取られている組織ほど、ビジョン実現の可能性を高く持っているといえるだろう。

さらに、ビジョンをどれだけイメージすることができるか、自分事で捉えることができるかが、ビジョンの普段づかいを支えるうえで必要になる。スポーツ選手の場合は、上位を目指すことが直接自分事になりやすいが、企業の場合、経営ビジョンと個々人の仕事の間に距離がある場合もある。

しかし、実は日常的にビジョンの普段づかいの機会は転がっている。たとえば自社紹介をする場面。名刺交換などの際に、簡単に自社紹介をすることがある。製品やサービスの紹介になりがちだが、他社との差別点を強調するときに、「我が社はこういう思いで創業しました」「我が社のサービスを使ってこういう世界が広がることを目指しています」などと説明することはないだろうか。

ビジョン・ミッション、あるいはそれを形作ってきた会社の歴史がそこで語られることが多い。これが実は自分の仕事と会社のビジョンをつなげるよい機会となっている。それに気づき、来客があると必ず現場を案内し、その説明を持ち場の社員にさせているという会社もある。

外部の人に対し、自分の言葉で会社を語る機会があるだけで、自身の仕事と会社のビジョンを交差させる機会がつくられるのである。

本来ビジョンは、わくわくするものであり、イメージがありありと喚起されるものである。賛同するからこそ、自分の仕事を通じてそこに貢献したいと思う。そのエネルギーが、ビジョンを現実化することになる。

ビジョンの普段づかいは、自分の仕事とビジョン実現との距離を近づけられるようになる一つの手段だ。どうやってビジョンの普段づかいをしよう、という議論が始まることが、わくわくする未来をつくる組織となる一歩目といえよう。

連載 : 人事2.0──HRがつくる会社のデザイン
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文=堀尾司

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