そう語るのは、オンライン医療事典「MEDLEY」をはじめ、ITの力で医療情報のあり方にイノベーションを起こしてきたメドレー代表取締役医師の豊田剛一郎氏。医療×IT分野のリーディングカンパニーは、4月29日、3つのリリースを発表した。それは、クラウド型電子カルテ「CLINICSカルテ」、API クライアントライブラリ「ORCA API」のオープンソース化、ブロックチェーンによる電子処方箋管理の特許取得、である。
脳神経外科医として米国で働いた経験を持つ豊田氏は、今の日本の現状をどう捉え、そしてこれら新たな挑戦の先にどのような未来を描いているのだろうか。
──ブロックチェーン技術の応用やAPIのオープンソース化など、新たな挑戦を始めることになった背景をお聞かせ下さい。
私たちは、「医療×IT」の幅を広げることで、患者さんや医療機関にとってより良いサービスが生まれていく土壌がつくれると思っており、今回のリリースはその土壌づくりの一歩だと考えています。
例えば今回リリースしたクラウド型電子カルテサービス「CLINICSカルテ」。これは、いままで院内のサーバーに保管されていたデータをクラウドで管理することによって、病院側はより低コストかつ高セキュリティーで患者情報を扱うことができます。またCLINICSカルテは、患者のオンライン診療アプリ「CLINICS」と連動できるため、患者側は、オンライン診療はもちろん、対面診療を含めた通院記録の管理ができたり、検査結果のフィードバックを受けたりすることなどもできるようになります。
こうした「医師と患者をつなぐ」新しい電子カルテの普及を通じて、医療業界全体でのデータ連携を促進させていきたいと考えています。
ただし私たちは、利便性が高いからとの理由だけで医療のIT化を推進しているわけではありません。「そもそも医療って病院に行かないと受けられないの?」とか、「病院に行けない人のことは考えなくていいの?」など、医療やその仕組みを改めて考え直すひとつのきっかけとして、オンライン診療や電子カルテを展開しているのです。
──電子カルテ普及率を見ると、日本は約35%ですが、アメリカや北欧諸国では電子カルテの普及率がほぼ100%。日本の医療領域のIT化は、それらの国々と比べると遅れているように見えます。その理由は、テクノロジーに対する医療現場の理解が遅いからでしょうか?
いえ、ITだからこそできる共有や効率化、コミュニケーションといった「概念」に対する医療機関と患者さん両者の理解がまだまだ浅いのです。診断機器や手術機器などのテクノロジーは日進月歩で進化しているのですが、ITプラットフォーム上でのコミュニケーションやデータの共有といった、いわば「インターネット的な考え方」が著しく遅れているのが日本医療業界の現状です。
CLINICSカルテを通じて、さまざまな医療データが医師や患者、介護施設などの各所で連携されるような「医療のプラットフォーム化」が進めば、別の医療機関同士が同じ患者のデータを共有し、より適切な判断ができるだけでなく、受動的なものと捉えられていた医療がより双方向性をもったものに変わってくるでしょう。医療のIT化によるそれらのメリットは、もっと多くの人たちが享受できるはず。そのプラットフォームづくりを「医療×IT分野を牽引するプレーヤーである」という自覚を持って取り組んでいます。
弊社で開発したAPIクライアントライブラリ「ORCA API」についても、本来する必要のないオープンソース化に踏み切った理由はそこにあります。これを利用することによって、全国で1万7000を超える医療機関に利用されている医療会計ソフトである「日医標準レセプト (通称 ORCA)」に容易に接続することができ、弊社以外の様々な医療関連ウェブサービスでも効率的なサービス開発ができるようになります。