実用的なAIがシンギュラリティに繋がる
──現場で役立つ実用的なAIに特化したプロダクトを育ててきたアシンさんは、2045年のシンギュラリティについてはどうお考えですか?
AIが人間を超越する日は間違いなく訪れるでしょう。私たちの取り組む実用的なAIの開発も、シンギュラリティに向かう大きなうねりの一部だといえます。なぜならどれだけ複雑で人間に近い動きをするAIも、膨大なデータを取得して、必要な情報を抽出し、インサイトを導くという点は変わらないからです。
予測そのものより私が気になるのは、どの国が最初にシンギュラリティを達成するかです。ロシアのプーチン大統領が「AIを支配する国が世界を支配する」と述べた通り、どの国がシンギュラリティに達するかで、世界のあり様は大きく変わるでしょう。
──シンギュラリティが達成するかどうかではなく、“どのように”達成されるかによって世界が変わると。
そうですね。人間が技術を活用するとき、誤った方向に転ばないようコントロールするのは容易ではない。それは原子力の歴史をみても明らかです。米国ではニュースのレコメンデーションによって社会の分断は進んでいますし、グーグルフォトが黒人をゴリラとラベリングした事件もある。意図せず、AIが人間にネガティブな影響を与えた例はすでに沢山あります。
私は数週間前にスウェーデンで講演をした際、「DataRobotのようなAIの技術が悪用されるのを防ぐにはどうすればいいか」と尋ねられ、言葉に詰まってしまいました。それまではデータロボットをどう成長させるかに集中してきたので、考えもしないことだったかったからです。
それを機に、今は「自分たちがAIの未来に対して何ができるのか」を考えています。AIを扱う企業には、その技術が良い目的で用いられるよう努力する責任があると改めて認識したからです。
AI民主化が起こし得る課題に挑む責任
──今後データロボットは、どのようにしてその“責任”を果たそうと考えていますか?
私たちが取り組もうとしているのは、教育です。データロボットの提供する教育プログラム『DataRobot University』では、今後AIの倫理に関する授業を提供したいと考えています。
これまで『DataRobot University』の講義では、データサイエンスの知識やDataRobotの活用法を、現場の課題に直結する内容に絞って教えてきました。講義内で用いているタグラインは「Relentlessly Practical(たゆまず実用的であること)」。現場の課題を解消するかに限定した講義です。
現在は企業のエグゼクティブやビジネスアナリスト、データサイエンティスト、教員など、多様な職種に向けたカリキュラムを用意していますが、ビジネススクールでも生徒に向けて授業しています。
いずれ、アメリカが国家を挙げてシンギュラリティの達成に向けたプロジェクトを始動するかもしれません。そこで技術が間違った方向に活用されてしまわないよう、私たちが大きな役割を担いたい。そのためにも、AIの発展が引き起こす倫理的、社会的な問題から目をそらさず、教育を通じてより良い未来に貢献する道を模索し続けたいと思っています。
シンギュラリティの到来を見据え、AIの民主化を最大限ポジティブに実現するための策を重ねる。常に実用的であることを重んじる姿勢からは、技術がもたらすユートピアを追う「シリコンバレー的な楽観主義」は見当たらない。
AIの可能性に浮足立つ時代には、技術と実社会をどのように接続させるかを思考するリーダーが、より一層必要になるのかもしれない。