メインステージ後、SLUSHカフェでの少人数セッションでの本音トークを繰り広げた二人。孫氏はまず、20歳頃の体験として、次のように語った。
「(1990年代半ばに)ブラウジングすると、ウェブサイトにポストのマークがついていて、“please send an email”と書いてあった。そこから世界のいろんなサイト運営者に電子メールを出すことができた。すると9割は返事が来て、仲良くなれた」
孫氏はその時、インターネットのネットワーク、つまり中央集権でない分散型アーキテクチャに強く魅せられ、これは世界を変えると確信したという。
それから20年、今度は台頭ししてきたブロックチェーンや分散型(decentralized)アプリケーションにも、「もしいま自分が若かったら、これが未来だと思って人生の100%をかけて没頭しただろう」と、かつてインターネットに抱いたものと同じような思いを感じていると言う。
「イーサリアム・ファウンデーション」のエグゼクティブ・ディレクター宮口礼子氏(左)と「Mistletoe」創業者の孫泰蔵氏
セッションの参加者から、「スタートアップが迅速に資金調達できるICO(Initial Coin Offering、新規仮想通貨公開)が注目されているが、これからのベンチャーキャピタルはどうなるのか?」と質問が出ると、孫氏は「SLUSHという場だからあえて言う」と断り、次のように断言した。
「いまのICOはいろいろと問題があるが、やがてクラウドファンディングやICOは洗練され、共感を得られるようになる。すると、いまのかたちのベンチャーキャピタルは、将来不要になるかもしれない」
現在のベンチャーキャピタルは、LP(投資家)からお金を集めて、スタートアップに投資するモデルだ。これが大きく変わると孫氏は言う。例えば、クラウドファンディングのリードバッカー(核となる支援者)のような立場になるという将来イメージだ。
質問者のベンチャーキャピタリストの「残念だ」という反応に対して、「ショックかもしれないが、自分はファーストムーバーの1人としてシフトしようと決めた」と孫氏は応えた。
続いて、いま世界第2位の仮想通貨であるイーサリアムについては、「イーサリアムは、まだいろいろな実験がされているアーリーステージであるが、みんなで取り組み、学び合うことが出来るコミュニティがあるのが強み」とまず宮口氏。ちなみに、彼女は高校教師を経てアメリカに渡り、サンフランシスコ州立大学でMBAをとり、その後スタートアップに参画したというユニークな経歴を持っている。
そして、孫氏と宮口氏の両氏は、「日本でのイーサリアムのコミュニティは今晩始まる」と、その日の夜に伊藤謝恩ホール(東京大学本郷)で開催される「Ethereum Japan Community Meetup #1」への期待を語った。
孫氏は20歳の頃、ネットの革命に興奮したが、当時年長の人たちは「ネットを通してやり取りするとか関係性を築くとか、そんなこと起こるわけがない」と言っていたという。そんな大人たちに強いフラストレーションを抱き続けた孫氏。力を握っている大人たちが理解を示さず、力のない若者たちが抑えつけられている状況を、いまも憂慮しているという。
「自分も年齢を重ねてきたが、そんな理解力のない大人にはならない。たとえよくわからなくても、率先して若い人たちをサポートしていく」。最後にこう力強く言い切った。