同社マイクロ・トレンド・グループのマネージングディレクター、カレン・ハリスによれば、世界経済は1980年代から大幅な転換の時期に入った。人口動態の変化と自動化の推進によって、供給よりも需要に大きく制約を受ける経済へと、徐々に変化しているという。
労働人口の減少と自動化によるコスト効率の向上がともに不平等を拡大させて需要を抑制。それが、経済成長を停滞させるというのだ。そして、それは向こう10年間の社会と経済に、多大な影響を及ぼすだろうと指摘する。
低賃金労働者に大打撃
自動化は社会の各層に、不平等に影響を及ぼす。少なくとも短期的には、利益の大半は高賃金の労働者が獲得し、コストの大半は低賃金の労働者が背負うことになる。だが、社会的に見てこれは、不安定な状況だ。自動化を進めるビジネスにとって、有用なものではない。
ロボットがつくった製品は、誰かに買ってもらわなければならない。だが、中低所得層の生活が苦しくなれば、彼らの消費支出は減少するだろう。その結果として現れるのが、「需要の制約を受ける経済成長」だ。これは必ずしも、経済の縮小を意味するわけではない。だが、国内総生産(GDP)の伸びを制限することになる可能性が高い。
ハリスは、テクノロジーが人口動態や人間の寿命に好影響を与えるとは見ていない。現時点で予想される不吉な兆候を、変えたり緩和させたりすることができるほど、人間の寿命が十分な速度で延びていくことはないと考えている。
問題はこれから深刻化
ハリスによれば、社会における不平等の拡大は、始まったばかりだ。状況は今後さらに悪化し、それは米国だけにとどまらないという。そして、人々はその変化にすぐには気づかないだろうと語る。失われた雇用の一部は、生産性の向上によって覆い隠されるためだ。だが、雇用喪失はいずれ、生産性向上を圧倒する問題になるはずだ。
ハリスはこの状態が訪れる時期を、(米国のアニメシリーズ、ルーニー・テューンズに登場する)「ワイリー・コヨーテの瞬間」と呼ぶ。この(アイデアを駆使して懲りずに獲物を狙うが、必ず失敗する)瞬間が訪れるタイミングを特定することは困難だが、恐らく今後10年の間にはやってくると予想している。
ハリスはさらに、今は市場の勢いに乗るときではないと言う。米国のドットコム(IT)バブルや住宅バブル(サブプライム問題)が起きた当時の問題を合わせた程度に匹敵するほどの大規模なバブル状態にあるためだ。この状況を変えることは難しいだろう。
もう一つ、社会に大きな影響を及ぼすと考えられるのは、消費者支出の減少だ。ベビーブーマー世代による支出の伸びは、2020年代にはマイナスに転じると考えられている。不平等が拡大していくことに加え、自動化によって職を失う労働者が最大25%になると見込まれることを考えれば、中流層は今後、消滅すると見ることもできる。
投資家たち、そして企業各社はこれから、「10年後の顧客は誰なのか」について考えていくことになるだろう。