「以前はまさに上意下達の会社だったんですよ」と取締役兼CHO・人事本部長の神田充教は苦笑する。本社・本部では毎朝全社員が経営理念を唱和し、互いを役職で呼び合い、部下は上司からの指示・命令を待つという、典型的な会社だった。
風土改革の本格的なスタートは、フラットな組織を目指し、「全員、“さん”付けにしましょう」と石川康晴社長自らが社員へ一斉送信したメール。当時の社員にとっては天変地異にも等しい衝撃だったが、いまや社長を「石川さん」と呼ぶことは日常風景となった。
社員同士が業務とは異なるつながりを持つことを狙って会社主導で立ち上げた「部活」も、いまでは自主的に運営されるフラットなコミュニティへと成長している。また、会社の動向と理念をつなげて全国の店舗スタッフに伝える「伝道師」という専任ポジションも新設、全国86カ所を回る「伝道師の会」で、更なる企業理念の浸透をはかる。
風土改革を進めて3年が経過したが、成果は「お互いのことをよく知っている」「一人ひとりが自分の意見を発信するようになった」といった肌感覚の変化だけではない。離職率は半減し、売り手市場にあって、新卒採用も過去最高数で着地。特に採用においては、最終面接での辞退が大幅に減っただけでなく、自ら志望度を高めて来てくれるという。
「私のいちばん大切なもの」をテーマに撮影された、社員のポートレイトが並ぶ廊下。顔と名前を一致させるだけでなく、家族や趣味など、一歩踏み込んだコミュニケーションにつながっている。
その仕掛けは、最終面接前の課題にある。自分で選んだ店舗を複数訪問し、社員へインタビューするというものだ。学生と接触する役割は人事やリクルーターといった一部の人材が担うことが一般的だが、同社は「いつでも誰でもどうぞ」というスタンスを貫く。
「セカンドファミリーの意味はいまや社員全員が理解しているし、仕事上でそれがどう生きているのかを語ることができる。学生に話すことでより理念が自分に染み込むし、学生もインタビューを通して多面的に会社を知ることができる。つまり両者の信頼につながっていくんです」
トップの強いコミットメントと率先垂範で始まった風土改革が、制度という枠組みの用意だけではなく、運用を徹底することで、ひいては社員の当たり前になっていく。ビジョン推進の手本のような風土がそこにはあった。
ストライプインターナショナル
創業者であり代表取締役社長の石川康晴氏の故郷の岡山県に本社を構える、アパレル企業。1店舗のセレクトショップから始まった同社は、現在900店舗(単体・直営)を構えるほどに拡大。また近年は、飲食事業や衣類のレンタルサービス事業を展開するなど、ライフスタイル領域へも進出している。