旅先を「博物館化」するアプリで海外に日本のファンを!

奈良の田園を前にバンオフィス。お世話になった粟の三浦さんと一緒に。

旅行先で神社やお寺に寄った際、ふと建物や美術品の制作者や由来について知りたくなったことはないだろうか?

博物館や美術館、観光スポットでは、案内やICレコーダーを置いていることもある。だが、前者はあっても日本語と英語のみ、後者はない場所の方が多い。

そこで生まれたのが、オーディオガイドアプリの「ON THE TRIP(オンザトリップ)」だ。ダウンロードすれば、自分のスマホで簡単に神社仏閣や観光名所についての音声ガイドを楽しめる(現在はiTunes / AppStoreのみ対応)。

GPS連動型の同アプリは、文字+写真+音声+動画を使って各地に根付く「物語」を伝えるのが目的。ユーザーは、境内の立て札や案内からは汲み取れないドラマを知ることができる。現在は渋谷や清澄白河、下北沢などの無料コンテンツのほか、浅草寺や越後妻有「大地の芸術祭」についての有料コンテンツを配信中だ。

また、日本の食や文化に関するトリビアといった「今さら人に聞けない」ことも写真やイラストを使って解説。外国人観光客にとってもわかりやすい。実際、海外展開も視野に入れており、英語や中国語など5カ国語への対応を予定している。

海外からの観光客に配慮した作りは、ON THE TRIPを立ち上げた成瀬勇輝CEOの実体験にもとづく。世界遺産のアンコールワットを訪れた際、成瀬は建物や美術についてもっと知りたかったものの、それを知る術がなく、歯がゆい思いをしたという。そして、日本でも同じ思いをしている外国人観光客がいるのではないか、と考えたのである。


ON THE TRIPが公式オーディオガイドを共同制作した「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。

2017年5月にサービスをリリース後、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の公式オーディオガイド制作を皮切りに、東京、奈良と徐々にコンテンツの対象エリアを広げているが、その取材方法が一風変わっている。平成エンタープライズの田倉貴弥社長から譲り受けた“バス”を寝食できるように改造し、1都市1カ月を目安に、記者や写真家が各地を回っているのだ。

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お寺の公式ガイドを制作する際の、インタビューの様子

宿泊や移動などのコスト削減という現実的な側面もあるが、成瀬は「取材先にじっくりと滞在することで、街をより理解したい」とその意図を語る。

ユーザーにアプリ経由で「物語」を伝え、そこで生じた収益の一部を文化財の保全や補修に充ててもらう──。ON THE TRIPは、旅人と旅先が互いを支え合える“観光の社会インフラ”を目指している。

文=フォーブス ジャパン編集部、写真=本間 寛

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家 BEST100」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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