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デザイン・ビジネス・テクノロジーの融合を掲げ急成長してきた「場の発明カンパニー」ツクルバが、新たな社内組織を立ち上げる。「tsukuruba studios」と名付けられた実験室はいかにしてクリエイションの、会社の、「未来の当たり前」をつくろうとしているのか。


案内されたのは、殺風景なスペースだった。学校の教室ほどの広さの部屋には、テーブルや椅子、棚、スケートボード、はがされたフローリング材などが乱雑に置かれている。

「この場所の一角には、砂場をつくる予定です」。ツクルバの共同創業者でCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)の中村真広は、目を輝かせながら言う。「東京にずっといると、受け取る情報が人工的なものに偏ってしまう。クリエイティビティを保つためには、自然に触れることでその偏りをチューニングする必要があると思うんです」

ツクルバとは、全国17カ所にネットワークを拡げるコワーキングスペース「co-ba(コーバ)」、企業のオフィスデザインや一棟ビルのリノベーションなどの空間プロデュース、そしてITを活用したリノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」を主な事業とした“場の発明カンパニー”。そのツクルバがつくる、2017年12月完成予定の「tsukuruba studios(ツクルバスタジオ)」は、「実空間と情報空間を横断するモノゴトづくりの場」だ。

プログラマーやデザイナー、アーキテクトといった領域を超えた専門知の集まるチームをつくり、細分化されがちな各領域を横断する機会をつくることによって、さらなる「場の発明」を生み出すための実験場である。

この新しい実験場をどのような場にするかを考えることは、ツクルバCCOの重要な仕事だ。日本ではまだ聞き慣れないCCOという自身の役割を、中村は「まだ形のないものに輪郭を与えること」と説明する。

「サービスや会社の哲学を言語化することや、ツクルバの文化をこのオフィスのなかで空間化すること。CCOの仕事とは、そうしたみんながおぼろげに感じているものに形を与えることだと思っています。人が増えれば増えるほど曖昧になりがちな会社の価値観に、輪郭を与え続けていくのです」。自分たちの欲しい環境をつくるために居抜きで入ったオフィスをリデザインすることには、ツクルバのDIYカルチャーをもう一度呼び起こす目的もあるという。

創業当初から自社サービスのデザインを担ってきたことはもちろん、メンバーが2年間で約3倍に増え、60人を超えたいまでは、ツクルバという多様な才能が集まる組織をデザインすることが自らの使命だと中村は考えている。

「co-baのコンセプトでもありますが、コミュニティの関係性には『copresence、communication、collaboration』の3つの『co』のグラデーションがあると思っています。せっかくオフィスを共有しているのに、ただ一緒にいるだけではもったいない。メンバーの様子をよく観察して、もしみんなの熱量が下がっていたらコミュニティを活性化させるための施策を行っていく。ツクルバのなかでより多くのコラボレーションが生まれる環境をつくるためのメンテナンスをするのも、ぼくの仕事です」

時代を牽引する「デザイナー出身」経営陣
Brian CheskyAirbnb
ブライアン・チェスキー◎エアービーアンドビー共同創業者兼CEO。チェスキー含む、創業者3人のうち2人がロードアイランド・スクールオブデザイン出身のデザイナー。部屋のリスティング、掲載する写真、ユーザーコミュニティなど、デザイン要素が企業のエンジンとなっている。


Jonathan IveApple
ジョナサン・アイブ◎CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として、経営メンバーでありながらデザインのみに専念する。故スティーブ・ジョブズから引き継がれる、会社としてデザインを何よりも大切にする姿勢が、世界中の人々を魅了する美しいプロダクトを生み出している。


Evan SpiegelSnap
エヴァン・スピーゲル◎スナップインク共同創業者兼CEO。スタンフォード大学のプロダクトデザイン科に入学。そこで当時数学とコンピューター科学を専攻していた現CTO・ボビー・マーフィーに出会い起業。2017年3月の上場により、20代のビリオネア起業家となった。


ツクルバの哲学をひも解くと、この新たなスペースとともにクリエイティブチームを発足することは、まさに、組織を、ビジネスを進化させるための「デザイン」にほかならないことがわかってきた。

ツクルバの「右脳と左脳」

ツクルバのもうひとりの創業者・村上浩輝は、学生時代に初めてiPhoneを手にしたとき、デザインこそがこれからのビジネスの鍵になると直感で確信した。「自分が将来起業するときには、クリエイターと一緒に創業したいと思った」と、経営学を専攻していた村上は振り返る。そして村上は、新卒で入社した不動産デベロッパーで中村と出会う。話を聞けば、大学院で建築を学んだ中村は当時、村上とは反対に、デザインからビジネス領域に影響を与えることはできないかと考えていたという。

「だったら一緒にやればいいんじゃない?」意気投合したふたりは、2011年にツクルバを創業。村上がCEOとしてビジネス領域を、中村がCCOとしてクリエイティブ領域を担当するツートップの経営スタイルで、建築・不動産・テクノロジーの融合を武器に新しい場のスタンダードをつくり続けている。

中村はお互いのことを「右脳と左脳みたいなもの」と形容する。「ぼくらはきっと、ひとりでは完全な経営者じゃないと思ったほうがいいと、いつかふたりで話したことがあるんです。2人で1人の人間だ、くらいに思わないとダメなんじゃないかって」中村と村上を前に話を聞いていると、ふたりのキャラクターが正反対であることに気がつく。過去のエピソードや比喩を用いてユーモラスに話す中村は、情熱あふれる活動家。落ち着いた口調で淡々と語る村上は、冷静沈着な戦略家といった印象だ。だが、片方が口を開くともう片方は真摯に耳を傾け、ふたりが互いに、自分にはない能力や視点をもつ「相方」を尊敬し合っていることも見て取れる。

この中村と村上の、ふたりの言葉を借りれば「緊張と尊敬」の関係性をツクルバという組織内に生み出したいという考えが、冒頭のツクルバスタジオ設立につながっている。

ツクルバスタジオは、co-baやcowcamoといった既存のビジネスを行う各事業部と並走しながら臨機応変に連携していくことで、新しい価値観をもたらそうとしているのだ。

「事業部は連続的で、線形な成長を日々実行していくことが得意な一方、ツクルバスタジオは非連続的なものを生み出すことに長けています」と中村は言う。「お互い取り柄が違うなかで、それぞれの取り柄をいかに掛け算できるか。対立概念や矛盾した価値観を併せもちながら前に進むことで、大きな推進力を生み出していけるのです」

ツクルバが大切にする対立概念のバランス

常に新たな価値を生み出すため、中村と村上はこれらのバランスが崩れていると判断すると様々な施策を打つ。ツクルバスタジオもそのひとつ。また、定期的な組織のメンテナンスのため、「co-beer」というカジュアルな施策を行う。冷蔵庫にビールを入れておき、就業後オフィスで飲みつつ会話をするよう仕向け、組織活性化を促す。

もちろん、ツクルバスタジオのデザイナーやプログラマーにも、従来よりも広い視点が求められる。デザイナーはプロダクトやサービスだけでなく、企画や実行方法といった事業の枠組み自体をデザインしなければいけない。プログラマーは決められたサービスを実現させるためのコードを書くだけでなく、ツクルバの事業をさらに進化させるためにテクノロジーがいかに寄与できるかを考えなければいけない。これまで下請けのポジションになりがちだったデザイナーは、従来とは異なる方法で社会と接続する方法を見いだす必要があり、これまで成長産業に乗っかるかたちで仕事を得ていたプログラマーは、人工知能がコードを書く時代に、テクノロジーの力で自ら新しいカルチャーやライフスタイルをつくり出していかなければいけないと中村は考える。

「文化的価値を生み出すことと経済的価値を生み出すことは、どちらか一方ではなく、レイヤーで重なるもの。これまで文化側に比重を置いてきたデザイナーも、経済側に比重を置いてきたプログラマーも、両方にこれまでにない立ち位置をつくることはできるはずです。デザイナーとプログラマーが、互いの視点を交換することで、きっと新しいものづくりが生まれていく。過去のやり方だけでは価値を生み出せなくなる未来がやってくるのであれば、デザイナーもプログラマーも、自らの職能を再定義し直さなければいけない──それがツクルバスタジオを通して伝えたいメッセージです」

会社のあり方を再定義

デザイナーの職能を再定義するとは、デザイン畑出身の中村が、自らCCOという肩書で経営の舵をとることで実践していることでもある。ジョナサン・アイブがCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)としてアップルのデザイン戦略を統括し、エアビーアンドビーやスナップチャットといった世界中で使われるサービスをデザイナーが生み出すようになった時代に、彼はここ日本でも、デザイナーの新しいロールモデルを示そうとしているのだ。



しかし、なぜ、いま、デザイナーの能力がビジネスの世界でこれほど重宝されているのだろうか? 中村に尋ねると、彼は「複雑性」というキーワードから時代の流れを読み解く。

「いま、ビジネスにデザインが求められているのは、世の中の複雑性に向かい合う、統合的な視点がデザインにはあるからです。ぼくはプロダクトを詳細に設計しているわけでも、コピーライターのようにプロフェッショナルとして言葉をつくっているわけでもない。でも、複雑かつ多様なものに輪郭を与えるデザイナーとしての思考法を用いて、ツクルバがどんな社会課題をどのように解決できるのか、あるいは多様なメンバーがいかにコラボレーションできるのかを考えています。社会がますます複雑化し、多様性のある組織で向き合うことが求められるこれからの時代にこそ、経営陣にもデザインの視点をもつ人がいなければいけないんです」

インタビューの最後にこれからのツクルバの展望を尋ねると、ふたりは米国の起業家、デレク・シバーズのTEDトーク「社会運動はどうやって起こすか」を引き合いに出した。

シバーズがあるフェスティバルの映像を見せながら、ムーブメントがいかにして生まれるかを説明するものだ。その動画のなかでは、ひとりの男が原っぱで裸踊りを始めると、1人、2人とフォロワーが生まれ、やがてその場にいる大勢の人々が踊り始める。「ぼくらもまだまだ裸踊りを続けなければいけません」と中村は笑う。

彼らがいうムーブメントとは、何もツクルバの事業が生み出すコワーキングやリノベーション文化のことだけではない。そこには時代の価値観が変わりつつあるいまこそ求められる、新しい組織の考え方や働き方も含まれる。

「1年後は見えるけど、5年後はわからない。でもむしろ、100年後は見えている」と村上は言う。「創業者のぼくらの寿命を超えて、文化や思想が残るような会社をつくっていきたいと思っています」

「これからのチームや組織のあり方を、自分たちの世代でもう一度再定義しなければいけない」と中村も続ける。「やっぱり『場の発明』を掲げている会社が、普通の働き方をしていちゃダメでしょう」と、彼は持ち前のちゃめっ気たっぷりな笑顔で語る。

ツクルバのCCOはいま、これからの時代の会社のあり方、未来の社会の当たり前をも、デザインしようとしているのだ。



HIROKI MURAKAMI
村上浩輝
ツクルバ共同創業者兼CEO。1985年、東京都生まれ。立教大学社会学部産業関係学科(現経営学部)卒業。コスモスイニシアに新卒入社。不動産情報ポータルサイトHOME’Sを運営するネクスト(現LIFULL)でSaaS型サービスの開発などを経て、2011年8月にツクルバを共同創業。CEOの役割を「未来を誰よりも考えているべき人」と考え、ツクルバを率いる。

MASAHIRO NAKAMURA
中村真広
ツクルバ共同創業者兼CCO。1984年、千葉県生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。コスモスイニシアに新卒入社。ミュージアムデザイン事務所での勤務を経て、2011年8月にツクルバを共同創業。都市でクリエイティビティを保つためには「アース=地球」に触れる必要があるという考えから、最近は庭いじりにハマっている。

TSUKURUBA
ツクルバ
2011年に設立された「場の発明カンパニー」。代表的な事業に、コワーキングスペース「co-ba」やITを活用したリノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo」がある。空間プロデュースを行う専門組織「tsukuruba design」、情報空間を設計するエンジニアチーム「tsukuruba technology」を再編成し、17年12月、実空間と情報空間を横断する実験場「tsukuruba studios」を設立。

text by YUTO MIYAMOTO photograph by KENTA YOSHIZAWA

 

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