人間の知性や徳性は生まれつき決まっているのか、それとも環境や努力次第で変化しうるのか。どちらを信じるかで個人の未来は大きく変わるというのが、『Mindset』の考え方だ。後者を信じる「グロース・マインドセット(しなやか思考)」の持ち主は、自分の可能性を伸ばす努力をすることができる。
フィードバックを真摯に受け止めるドーシーの姿勢も、この思考の賜物だ。「スクエアの成長は、この本のお陰だよ」という。
同社ではこのマインドセットを従業員に根付かせようと、全新入社員向けにサンフランシスコで行われるワークショップで、グロース・マインドセットのセッションを取り入れている。
このようにして培われるスクエアの理念のコアとも言える「常に学ぶ姿勢」は、時に予想外の発見をもたらす。それが、新たなサービスにつながった例もある。小企業の融資をサポートする「Square Capital」が一例だ。
既存のサービスに「融資」の領域をミックスすることで生まれた同サービスは、すでにスクエアを導入しているユーザーに現金を前貸しし、売り上げから一定額を返済していく。既存の枠組みでは融資を受けることが難しかったスモールビジネスを対象にした画期的なサービスだ。しかし当初のドーシーは、そうした組み合わせを考えてもいなかったという。
「会社として融資の領域に踏み入れることは全く想定していなかった。でも、われわれのシステムがどのように利用されているかを観察するうちに、クレジットカードを読み取ったあとに、こちらから積極的に前貸しができることに気がついたんだ」
また、同社には「失敗から学ぶ」ことを目的にした「レトロ」というワークプロセスがある。日々の業務を振り返り、失敗したプロジェクトの敗因をメンバーの前で開示して、改善点を話し合う会議だ。「名前はレトロスペクティブ(回顧)という言葉からきている。失敗に対してオープンになることが出発点になるんだ」
「個人の力」に頼りすぎてはいけない
紆余曲折を経て2社のCEOを兼任するに至ったドーシーは、一度ツイッターを去り、スクエアを立ち上げる過程でも数々のフィードバックを受けてきた。中でも影響を受けたのは、チームワークについての考えだという。
「一般的に、どうやればチームが協力しあえるか考えることよりも、個人を動かすことの方が簡単なんだ。だから企業はチームワークを育てずに、一人のエースを探そうとしてしまう。個人への集中がチームに対して与える悪影響を軽視してしまうことになるんだ。だから意識的に、チームが一丸となって動く方法を考えるようにしたんだよ」
これは、長いスパンを視野に入れ、周りの意見につぶさに耳を傾けた結果たどりついた、良いプロダクト作りに欠かせない条件だ。革命的なサービスを2つも世に生み出してもなお、変わることを恐れずに成長を目指す姿勢の根幹には、「失敗を恐れないマインドセット」と「チームワーク」にあった。
「僕は課題を見つける洞察力が、自分が元々持っていた才能だとは思っていない。学んだことだよ。だからきっと、誰でも身につけることができるんじゃないかな」